第94話 ギルドでの一悶着
無事に疾風猪の牙を入手したシュウ達は、他にも鉤爪猿二匹を倒し、野獣の肉等素材を拡張されている巾着袋に入れ、意気揚々とパヌエの町へ戻ってきた。
時間はまだ夕刻を告げる鐘が鳴ってない事から、思っていたより早めに町に戻れたようだ。
シュウ達はそのままパーンドギルドに赴き、依頼の品を納品する。
「はい。確かに
相変わらずの造られた笑顔を顔に張り付けながら、受付嬢がにこやかに対応する。
「はい。あの他の素材は売れませんか?」
クムトの問いかけにもスムーズに対応する。
「では、あちらの買取窓口にご提示下さい。隣が達成票の引き換え窓口になっておりますから、そのまま引き継いで料金を受けとる事が出来ます」
「ありがとうございます。早速行ってみますね」
「別のご依頼を受ける際はまたお越し下さい」
丁寧に頭を下げる受付嬢に軽く黙礼して、シュウ達は買取窓口に移動する。
「ここが買取窓口でいいですか?」
「はい。ご不要の素材が在りましたら、こちらで買い取りをさせて頂きます」
「なら、これを……」
クムトが何でもない巾着袋から次々と素材を出していくのに、窓口担当だけでなく、他の冒険者達も唖然とする。
周りを余所にクムトが鉤爪猿二匹分と疾風猪の残りの部分をテーブルに並べて置く。
「えっと……これだけ何ですけど」
「はっ、はい。こ、こちらで査定させて頂きますぅ」
出したものはそう珍しくはないが、入れていた袋が問題だった。
(結構悪目立ちしてるな)
シュウがそう思ったのも無理は無い。
周辺の皆の視線がクムトの持つ巾着袋に注がれているのだ。
恐らくそうなるだろう事はシュウ達も想像していた。
が、折角の物を隠して使うなど、そんな面倒な事をシュウがやる筈もなかった。堂々と使用するのみである。
隠し通せるならシュウも我慢したかも知れないが、いずれは巾着袋の事も露見するだろう。だとすると、遅いか早いかの違いでしかない。
ならば堂々と使用した方が精神的にも余程良いだろうと思っての事だった。
「で、では査定させて頂きます。少々時間が掛かりますので、あちらのテーブルでお待ち頂けますか?」
「はい」
窓口担当から指し示されたテーブルを皆で囲む様に座って査定を待つ。
その間も視線はこちらの方をチラチラと窺っている。
いい加減ウザくなってきたシュウを押し留める様に、クムトが会話を始める。
「取り敢えずは結構な稼ぎになると思いますよ。依頼料も合わせれば金貨二枚位にはなるんじゃないですかね」
「そこまではいかんじゃろ。金貨一枚と銀貨五十枚くらいじゃの」
「でも、一日の稼ぎだとそこそこじゃない?」
クムトに合わせる様に、会話を続けるが、視線は相変わらずこちらに向いている。
「煩わしいのう。ワシ等の持つ袋がそんなに気になるか?」
シュウが何かをする前にと、デュスが敢えて大声で喚く。
戦斧を床に打ち付けるとゆっくりと立ち上がり、受付に聴こえる様に叫ぶ。
「このギルドは他人の持ち物を不躾に見るのを許容するのかの?」
流石に騒ぎを大きくする事は不味いと思ったのか、向けられて来る視線の数が減る。
ギルド内での騒ぎは契約条項に抵触する。
本来なら叫んだデュスが問題になるのだが、今回は周りの視線が問題で、デュスがそれをギルドに聴こえる様に問い質したに過ぎない。
それに気づいた受付嬢が、笑顔を絶やすこと無くデュスに簡潔に答えた。
「いえ。気分を害された事には謝罪致します。本来ならギルドはこの様な問題には関り合いになりませんが、査定を待っている間の事ですし、騒がれる訳にはいきませんので、ハッキリと申し上げておきます」
受付嬢はデュスだけでなく、皆に聞こえる様にハッキリとした口調で告げた。
「周囲の冒険者様方も注意してお聞き下さい。ギルド内での騒ぎは契約条項に記載の通り、衛兵を間に挟んでの対応となります。それは無言有言を問わず、他の冒険者様に迷惑を掛けた行為が対象となります。今回の場合はデュス様と一部の冒険者様が対象となります。ですので、この場に於いて、これ以上の騒ぎを起こした場合は、契約に乗っ取った対応となりますのでご注意を。デュス様もそれで宜しいですね?」
「あい分かった。ワシらも騒ぎを大きくしたい訳ではないのでな。煩わしくないならそれで良い」
受付嬢の言葉にデュスが落ち着いた様子で応じた。
早い話が、ギルド内で騒ぎを起こすな、起こすならギルドの外でやれ、と言う事だ。
デュスとしては、受付嬢がこの状況に対して、ギルドの立場を明確にした事に意味がある為、十分に納得がいく形になったのだ。
これ以降に不躾に視線を向けてきた輩は、ギルドに申し出て対処して貰える訳だ。
周囲も受付嬢の言葉の意味に気づいたのか、殆んどが視線を向けなくなった。
だが、これはあくまでもギルド内での事で、一歩ギルドの外に出ると、直接絡んでくる輩も居るだろう事は明白であったが。
其れならば其れで問題は無い。シュウ達もそれ相応の対応を取るだけなのだから。
煩わしい視線が問題なのであって、直接対応出来るのなら幾らでも対処は出来るのだ。
こうして受付嬢が笑顔で話を纏めたお陰で、シュウ達は買取査定の間はゆったりと寛ぐ事が出来た。いや、出来る筈だった。
だが世界の荒波は、ここパヌエの町にも押し寄せて来ていたようだ。
「大変だ! 戦争だ、戦争が始まるぞ!」
スイングドアをけたたましい音を立てながら押し開いて入ってきた男は、大声でそう告げるのだった。
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