第87話 疾風猪を求めて
木々の間を縫う様に、シュウ達は山を登っていた。
恐らくは予想通り、昼前には目的地に到着するだろう。
太陽の無いこの世界では、時間の感覚は酷く曖昧なものであった。
町や村ならば魔導具に因って時間が分かる為、鐘を鳴らすなどして周辺に時間を周知させる事も可能だったが、一歩町から外れれば、時間を知るのは容易ではないのだ。
太陽という物がない為に、夕刻になっても周囲は明るいままだ。
辺りが漸く薄暗くなった事に気付いた時には、既に時刻は夜に差し掛かっていたと言うのも珍しい話ではない。
故にこの世界では、余程時間に余裕がない限りは、目的を優先して片付けるのが一般的だった。
当然だが、シュウ達も時間を細かく知る術は持っていない。
体内時計を頼りに時間を推し量っている為、少しでも早く目的地に到着しようと道なき道を登っているのだ。
「ギルドに聞いた話じゃと、山間には草原が広がっておるはずじゃ。そこに
デュスの話を聞き、クムトが目的物の確認を行う。
「目的は
「そうじゃ。薬の配合に使うそうじゃて、折る時は根元からじゃぞ」
「りょーかーい」
デュスの説明にティルが軽く応える。
ティルにしてみれば、今の自分では直接討伐には加われないので気楽なものだった。
「ん? そろそろ林を抜けるぞ!」
先頭を歩いていたシュウが、漸く山間に着いた事を知らせてくる。
「おおーっ。見晴らしがいいわねー」
シュウ達の居る場所から、なだらかに山間に向かって、かなりの広さの草原が広がっていた。
草原の向こうには林があり、丁度林と林の間が草原になっている様で、ぽっかりと緑の絨毯が広がっている。
「シュペル!」
「チィッ!」
シュウの声に反応して、ティルの肩に止まっていた羽刃雀のシュペルが空高く舞い上がっていく。
「見つけたら知らせろ!」
「チュン!」
人語を理解するシュペルである。シュウが何を望んでいるのかを直ぐに察し、草原へと向かって、その小さい羽を大きく羽ばたかせた。
「こういう時はシュペルが居ってくれて助かるのう」
「そうですね。僕達だと移動が大変ですけど、シュペルなら空から見て回れますからね」
「さっすが私のシュペルね!」
「いや、シュウさんのだと思うよ」
自慢げに言うティルについついクムトがツッコミをいれてしまう。
「いや、いいんじゃないか? シュペルにはティルとペアに成って貰った方が、色々と応用が利く」
「へう?」
シュウの意外な言葉に、ティルが変な声を上げてしまう。
「いや、お前の魔方陣でシュペルを強化すればいいだろ」
「あー成る程ねー……うん。それいいかも」
どんな想像をしたのか、ティルがニヘラと笑う。
「まぁ取り敢えずは、シュペル待ちだし、
「やったー! やっと試せるわ!」
シュウの言葉にティルが嬉しそうな声を上げる。
「但し、いつ野獣が現れるかもしれんから、注意は怠るなよ」
「はーい」
「うむ、分かっておる」
シュウの警告に素直に頷き合うと、早速とばかりにティルがスキルに関しての新たな発想を展開する。
「ねえねえ。私思ったんだけど、スキルって手順さえ間違えなければ、後はイメージで何とかなるわよね?」
「いやいや、それはティルだからじゃ。普通は決まった形でしかスキルは発動せんよ」
デュスの呆れた様な訂正の言葉にもあまりピンと来ないのか、ティルは小首を傾げながら更に話を続ける。
「うーん。そういったもんなの? 私は結構イメージ通りに魔方陣が描けるんだけど?」
「じゃからの、ティルには想像転写のスキルがあるじゃろ。じゃから思った通りにスキルが発動するんじゃよ」
「それは僕も同じでしょうね。形状は変わりませんが、思った通りにスキルが発動しますから」
「……神のスキルとは本当にとんでもないのう」
クムトの言葉に沁々とデュスが呟く。
「先ずは僕のスキルから試してみましょう」
「ええーっ。私の方が先にしようよ」
「うん、そうも思ったんだけど、何かティルのスキルは応用が利きそうだからさ……僕のスキルはそういった感じじゃないんだよ」
「そうなの?」
「うん。二種類しかないしね。ティルも何か気付いたら教えて欲しい」
「うう~っ、分かったわよ」
珍しくもクムトが先に試すのを譲らない為、ティルも渋々と頷くのだった。
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