第86話 初めての依頼
よく晴れた天候に恵まれた翌日の早朝、シュウ達は朝の澄んだ空気を吸いながら、パヌエの町から少し離れた街道を一路西へと歩いていた。
昨夜の……といっても暗くはならないのだが……話し合いで、今日は収入を得るために、ギルドの依頼を受けてみる事になっていた。
その為、朝早くにギルドへと出向き、良さそうな依頼を受けたばかりであった。
受けた依頼は野獣、
疾風猪はその名の通り、疾風を纏って突撃してくる猪だとデュスから聞いていた。
「基本的に
戦斧を片手にデュスが告げる。
「平野では、とんとお目に掛からん野獣じゃな」
「なら今日は山迄行くの?」
「そうなるじゃろうな」
今シュウ達がいるパヌエの町は平野部にある。
疾風猪が現れるであろう山岳部は、西の方角に遠く見える山脈との中間くらいに在る小高い山合いまで行かなくてはいけない。
「何でそんな面倒な依頼を受けたの?」
「それはじゃな……」
「まず、依頼料が割かし高い。そして、そんな面倒な依頼は、余り好んでは冒険者も受けない。つまり人が少ないと言う事だ」
デュスの後を引き継ぐ様にシュウが答える。
「スキルやアビリティの確認にうってつけって訳ですね」
「まぁそう言う事だ」
シュウの言った様に、この依頼は冒険者が好んで受けない依頼だった。
移動距離と依頼料の費用対効果が高く無いせいだった。
野獣討伐の依頼料としては高い部類なのだが、拘束時間が長すぎる為、通常の冒険者としては二の足を踏む。
近場の依頼を二つ受けた方が時間的に割りに合うのだ。
その為、シュウ達は誰憚る事もなく、この依頼を受注する事が出来ていた。
初めての依頼としては難易度が高くなるのだが、ギルドとしても受けの良くない依頼は、可能な限り早めに片付けたかったのだろう。
実力的に不足していれば受注拒否されていたかもしれないが、昨日の適正試験を受けた際に、その実力は認められていたのが幸いしていた。
その為、問題なく受注出来たのは、ギルドとしてもシュウ達としてもWin-Winな事だった。
目的地の山岳部には、恐らく昼前位には到着するだろう。
野獣を討伐して帰っても、夕刻には町まで帰還出来ると思われる。
シュウ達は山岳部に向かいつつ、道すがらスキルやアビリティの確認をするのだった。
「でさ、シュウに言われた通り、魔方陣の複数展開を試して見たいのよ」
「そうだね。それが出来れば、何か色々と応用が利くだろうし」
「でしょでしょ。あー私も魔導みたいにドバーって魔方陣で炎とか飛ばせれば、カッコいいよねー」
ティルは身ぶり手振りで魔導を発動させたポーズを取る。
「して、ティルは炎の魔方陣は知っておるのかの?」
「うん。火種以外に図書館の本に載ってたから覚えたよ。火球って大きな炎を出すやつ」
「ならそれに、動きを付ける魔方陣をセットで描ければ、攻撃手段として使えるな」
「うん。それも本に乗ってたんだ。だから多分出来るんじゃないかなーっと思って」
シュウの考えを肯定するかのようにティルは魔導筆をブンブンと振り回しながら言う。
「あー早く試したいなー」
「もう少ししたら山じゃし、炎じゃったらこの辺りで試した方が良くないかの?」
デュスが炎と聞いて、山火事を想像してか、早めの試行を提案する。
「別に試すだけなら、炎じゃなくてもよくないですか?」
「ええーっ! 派手なのがいいんじゃない!」
クムトの意見にティルが不平を述べる。ティルはどうやら派手めな魔方陣を使いたいらしい。
「ティルには使える魔方陣は一通り試してもらう。何が出来るかを調べる為にな」
「ならデュスが言った様に、この辺りで確認しますか?」
「いや、依頼の達成が優先だ。
「じゃが、山で火を飛ばすのは危険じゃぞ?」
「別に火系統を使う必要はないだろ。取り敢えずは火系統以外の魔方陣が発動するかを確認する。魔方陣の並列使用も後で試すつもりだしな」
「ええーっ! 発動させるだけって、そんなの詰まんないじゃん」
「別に使うなとは言ってない。帰りに試すだけだ。行きは野獣討伐を優先させる」
「なら帰りで絶対試すからね!」
「あぁ。是非とも試してくれ。使えると使えないじゃ戦術の幅が変わって来るからな」
「やったぁ」
シュウが結論だけを述べ、ティルがその言葉に嬉しそうに微笑んだ。
依頼を済ませてしまえば、後は町に戻るだけなのだ。焦って今すぐに魔方陣を試行する必要は無い。
要は目的の疾風猪を見つけて討伐さえしてしまえばいいだけの話なのだ。
逆に言えば、見つからないのが一番不味い訳で、如何に早めに討伐するかの問題なのだ。
シュウからすれば、ここで野宿など更々やる気はないのだ。
やる事やって空いた時間に確認作業が一番好ましい。
「取り敢えずは、依頼の達成だ。さっさと
「へーい」
さっさと魔方陣を試したいティルには若干不満だったが、シュウの言いたい事も理解出来る為、渋々ながらも頷いたのだった。
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