第69話 筋肉、鍛えてますか
「よう兄さんら、筋肉鍛えてるかい?」
シュウ達の行く手を遮るように二人の男が立ち塞がる。声を掛けて来たのはボディビルダーの様な筋肉質の二メートルを越す大男だった。
皮の胸当てを付けた何処にでも居るような冒険者然とした二人組だ。
「……お前らに用はない。他を当たれ」
シュウが男達の顔も見ずに会話を切って捨てる。
が、男達は軽く笑って聞き流す。
「いいか? 男足るもの筋肉を鍛える事は必定!」
「我らの様に身体を鍛えるのだ。その為には良い運動と良い食事が必要だ」
「喧しいわ! 他を当たれと言っている」
シュウは立ち止まると、漸く男達を視線に入れる。
体つきはどちらもムキムキで大差ないが、頭髪は各々違った。
片方は毛髪を伸ばして三編みにし、後ろに垂らした辮髪にしており、もう片方は短髪にバンダナを付けている。
目や髪の色は同様で濃い紫色をしており、両人とも顔立ちが似かよっている事から、兄弟だと思われる。
「そう言わず、我らの話を聴け!」
「そうだ! 我らの筋肉に黙って耳を傾けるがいい!」
「知らんわ! さっさと退け!」
シュウと男達の大声に、周りを歩く冒険者や傭兵達が視線を向け始める。
「ちょ、シュウさん抑えて抑えて!」
今にも手を出しそうな雰囲気のシュウをクムトが必死に止める。
「……いや、何もしないって」
余りに必死そうなクムトに毒気を抜かれる。
そもそも町に入って早々に揉め事を起こす気などシュウには更々無かった。
「本当ですね? シュウさんは面倒になると何するか分かりませんから……」
(一体俺を何だと思ってるのか一度問い詰める必要がありそうだな)
静かにシュウはそう決意する。が、此処でそれを捲し立てるものでもない為、一つ溜め息を吐くとクムトの頭に優しく掌を乗せる。
「分かったから、落ち着け」
「そうだ! 落ち着くのだ少年!」
「骨が足りてないぞ少年! もっと肉を食え肉を!」
大男達はシュウの言葉に合わせてクムトにも声をかける。
「お主らも少しは此方の話を聞かぬか?」
流石にデュスも呆れた様な声を出す。
「……はぁ。まぁいい。で、その筋肉が何の用だ?」
「うむ。筋肉は素晴らしいぞ。男は黙って筋肉で語れば良いのだ」
「我らが……「喧しいわ! さっさと用件を言え! てか誰だよお前ら!」…むう」
通りのど真ん中での騒ぎに、周囲の視線は段々と増えていく。
面白そうに遠見から見る者、やれ何か乱闘騒ぎかと足を止める者も現れる。
徐々に囲みが出来るのを余所に、男達は顔を見合せ頷くと、バッとポージングを取る。
「我が名はヴァン!」
サイド・リラックス(左)
「我が名はパイア!」
サイド・リラックス(右)
「「二人合わせて、不死身のヴァンパイア兄弟とは我らの事よ!!」」
フロント・ダブル・バイセップス
周りでシュウ達の様子を伺っていた者達も含め、皆から可哀想な者を見る目を注がれるヴァンパイア兄弟。
「……はぁ。で、見せ掛けの筋肉マンは俺達に何の話があるんだ?」
シュウも同じ様な視線で兄弟を見つめる。
「ぬう! み、見せ掛けだと!」
サイド・チェスト(左)
「き、聞き捨てならんぞ、それは!」
サイド・チェスト(右)
兄弟は更にポージングを取りながらシュウに迫る勢いで反論する。
「「我らの筋肉は見せ掛けではない」」
モスト・マスキュラー
空気が凍った様になり、視線が更に冷たくなる。
一部ではさっさとこの一帯から立ち去る者も出てくる。
「はいはい……お前らに、一つだけ教えてやるよ」
シュウはそう言うと右手を兄弟の方へ伸ばす。
そして右手だけを巨大化させ、兄弟よりも更に筋肉質に変える。
「「なっ!!」」
ヴァンパイア兄弟が思わずポージングを崩す。
それはかなり異様な光景であった。右腕だけが胴回り位の大きさなのである。
「ふん。筋肉、鍛えてますか?」
そう言うとシュウはその巨大な右腕の筋肉をムキムキっと動かして見せる。
「「「「「な、何だそりゃーー!」」」」」
そんなシュウに周囲からも絶叫が迸るのだった。
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