第68話 宿を探そう
シュウ達一行は漸く細道を抜け、街道たる大きい道へと辿り着いていた。
街道だけあってやはり人の通りがある様だ。何人もの旅人だろう人達が街道をパヌエの町方面に向かって歩いている。
そんなシュウ達の目の前を馬車っぽいのが通り過ぎていった。
「おぉ。あれが
シュウは目の前を進んでいく馬牛の姿に驚きの声を上げる。
以前にクムトから教えて貰っていたが、こう実物を見ると酷く違和感を感じてしまうのは仕方ない事かもしれないが。
(馬と言えば競馬に出てくる競走馬……サラブレッドのイメージが強いからなぁ)
だが目の前にいるのはどちらかと言えば牛の方が近い。
(足がすらりとした牛って違和感半端ねぇな)
そう馬牛は胴体と頭部は牛で足が馬の様に伸びている野獣だった。
角は一角獣の様に真ん中に一本生えており、それが牛の顔に付いているのだ。
走る速度はクムトに聞いたところ、馬くらいの速度で走れるらしい。
今目の前を通り過ぎたのは馬牛の後ろに四つの車輪が付いた箱型の馬車だった。
「なぁこれって馬車と呼ぶのか?」
「ん? いや乗車と呼ぶのう。引いている野獣に因って呼び名が変わると大変じゃろ? 因みにそれは馬牛乗車じゃな」
異世界からやって来た事を知ってから、デュスは何気に丁寧に子供に教える様に説明する様になった。
これはシュウに限らず異世界の常識に疎い一同全員へのフォローの為である。
もっとも一番世情に疎いのはやはりシュウだったが。
(いや、分かりやすくていいんだが……何か自尊心を削られていく感じなんだよな。クムトやティルは幼い記憶を持ってるからまだましだが、俺はゼロだからなぁ)
目の前の街道をゆっくり進んでいく乗車を見ながら、シュウは誰にも言えない悩みに憂鬱とするのだった。
結局それ以降は野獣に襲われる事もなく、一行は無事にパヌエの町へと辿り着いた。
長い列に並び漸く外壁にある街門に辿り着く。
町の入口には常設の詰所があり、町への出入りを厳しく取り締まっていた。
「次!」
漸く順番が回って来たシュウ達はその声に合わせて門へと向かう。
門番はジロジロと無遠慮にこちらの様子を伺ってくる。
「ふん。ヒューマのガキが二人にドワーフと獣か」
その言葉にかなりイラっとしたシュウだったが、取り敢えずは何も言わずに一行の後ろに控えていた。
主に対応はデュスが行う事になっているのだ。
ヒューマ族とはいえクムトとティルはまだ成人も迎えていない年齢だ。
嘗められない様にする為にも対応するのはデュスが一番適役だったのだ。
「パーミ村からじゃ」
「ふん。いいだろう。だがそこの奴隷の獣は確りと躾ておけ。何か問題を起こしたら、貴様らが責を負う事になる」
「……了解じゃ」
「次!」
もう用はないとばかりに視線を外される。
シュウ達は無言で足早に町中へと歩を進めた。
「何よ! アイツ感じ悪いわね!」
門から少し離れた所でティルがプリプリと怒り始める。
面倒事を避けるために門番に聞こえない所まで我慢はした様だ。
「まあ、何事も無かったんだし……ね」
クムトが宥めようとするが、ティルは怒りが収まらない様に捲し立てる。
「何よ、クムトはムカつかないの? シュウの事も奴隷って言ってたじゃない! 私達の事もガキって! 失礼しちゃうわ! こんなレディに向かってガキって!!」
「……ああ、それがアウトだったんだ」
どうやらシュウの事よりも、自分がガキ呼ばわりされた事に怒っているようだ。
クムトは個人的な感情で怒っているティルを見て内心で溜め息を吐いた。
「まぁそれはどうでもいい」
「どうでもよくない!」
「それよりは先ず宿を取る。話はそれからだ」
ティルの言葉を完全にスルーしてシュウがこれからの行動について話を進める。
「まぁそうなるじゃろうな」
「そうですね。兎に角、一度荷物を下ろしたいですよね」
「何よ、その反応は酷くない? 酷いよね」
ティルは自分の怒りをスルーされた事に納得がいっていない様でブツブツと呟く。
「まあまあ」
「……はあ。まあいいわ。私も肩痛くなってきたし」
クムトが一応宥めた事と初めての長旅に疲れた事で怒りを収めた様だ。
「デュス、先導を頼む」
「了解じゃ」
ここでもデュスが先頭に立って進む。
デュス以外はこの町に来た事が無い為、自然とそういう形となるのだ。
シュウ達は町に入ろうとする人の流れに乗って先に進んだ。
このパヌエの町は賽の目状にきちんと区分けされた町並みを誇っていた。
区画は大きく分けて、教会と行政施設のある一区、武器防具らの店が並ぶ二区、飲食店や旅宿が集まる三区、一般的な住宅地である四区の四つに別れている。
当然シュウ達の目的地は旅宿が集まる第三区画だ。
活気がある町並みを眺めながら宿を求めて歩く。
ティルはこの世界で初めて見る大きな町の雰囲気に視線があちらこちらと目まぐるしく動いている。
「ねぇクムト。あれ何?」
今も露店に並んでいる商品の中から目新しい物を見つけたらしくクムトに話を振っている。
クムトも苦笑しながらティルの話し相手になっていた。
そうこうする内に町並みが変化してくる。
飲食店や旅宿が多くなってきたのだ。三区に入った様だ。
三区は東西と大きく二つに分けられていた。
「この三区はの西側に料金が高めの宿が集まっておって、東側はまぁ安い宿が多いが治安が悪いの」
デュスの説明によると三区の東側は冒険者や傭兵といった荒っぽい職業の者達が集まる場所らしく、逆に西側には荒っぽい者達は立ち寄らず一般の旅行者や商人達が主に集まるらしい。
荒っぽい諍いも、主に東側で起きるようだ。
この辺は区分けが確りとしてあるこの町の良い所だろう。
今居る東側にクムトやティルの様な子供が立ち寄るのは珍しい部類に入るらしい。
そんな冒険者や傭兵達を掻き分けながら、シュウ達は宿を求めて三区の東側をブラリと歩いていた。
この辺りの宿は低賃料なので冒険者達に人気があるらしく人の出入りが激しい様だ。
「まぁこんなに宿があるなら、泊まれないって事はないだろ」
シュウが誰かに言うでもなくそう言葉を吐いた。
冒険者が集まるだけに獣人もちらほらと見受けられ、得にシュウが目立つ様な事も無い為気楽に喋っている。
「どうでもいいから、早く宿を決めようよ。もう足が痛くなってきた……」
旅慣れていないティルは弱音を既に吐いている。
「もう少しの辛抱だよティル」
「……うん」
クムトの言葉にも余り反応しない。
「その辺は慣れじゃが、ティルは体力を付けた方がいい様じゃな」
この位で疲れていては旅は出来ないとばかりにデュスが苦言を言う。
「……これから頑張っていくわよ」
ティルはそう言い返すのがやっとの様だ。
「まぁ手近な宿で手を打つか」
見た感じ特に東側の宿でも問題ないだろうと判断したシュウがそう言う。
「じゃな。後は良さそうな宿を見繕うだけじゃな」
皆も頷き当面の宿を求めて歩き出すのだった。
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