第16話 ダンジョンを探索しよう


 影蝙蝠ソンブシェラゴとの戦闘が一段落したところで、一同は何処かで休憩をしようという雰囲気になる。

 スムも武器無しの戦闘は堪えたのか、口数は少なくなり多少息も上がっていた。幼児達も恐怖が去り安堵した為か、何処か疲れた表情を浮かべている。

 対して殆ど様子が変わらないのがシュウとクムトの二人である。シュウは合成獣である事を考えても納得できるが、クムトは只の村人だった為、戦いとは無関係だった筈だ。普通の大人でも命が懸かった戦いの後は疲れ果てるものだ。それも初めての戦いとなると特に。



(やっぱクムトはどこか普通じゃねぇな)



 何処が違うのかはっきりとは言い切れないが、シュウにはクムトから感じる違和感を拭えない。だが……、



(別段悪い気はしないんだよな)



 違和感は感じるがそれが悪意のある物、ひいては自分達に害を与える物の様には感じられない。

 直感は行動を共にした方がいいとさえ伝えてくる。

 故にシュウはクムトを俯瞰してみる様に心掛けていた。

 直接的な被害が無いのであれば“一応は”問題ない事にしようと思っている。

 そんなシュウの思惑を知らないクムトは先の戦闘時に思っていた質問をスムに問いかけていた。


「スムさん。野獣って、魔物とどう違うんですか?」


「あん? お前そんな事も知らなかったのか?」


「あ、はい。村に住んで居た頃は魔物は怖いぞ危険だぞって聞いてたくらいで……その、狩人のおじさんも……」


 呆れた顔で溜息を付きながらスムが説明する。


「いいか? 魔物ってのは基本的に身体を持たねえ。だからさっきみたいな身体を持つ奴はただの獣だ。一応獣族って獣とヒューマ族が混じったような奴もいるから、一般的に野獣って呼ばれてるんだよ」


 また分からない言葉が出てくる。

 獣族ってのはよくラノベで出てくる獣人と言われる種族だろうと想像出来るが、ヒューマ族と言うのがよく理解出来ない。

 それに魔獣ではなく野獣と呼ばれる獣。と言う事は魔獣と言うのが別に存在している可能性も有る事になる。



(やっぱこの世界は色々ややこしいな。ヘルプ機能がほんと欲しいよなぁ)



「あの……ヒューマ族って、僕達人とは違うんですか?」



(おっ、流石はクムト。痒い所に手が届くってもんだ)



「何言ってやがる。俺たちがヒューマ族だろうが」



(ほぅ。この世界では人間族や人族と呼ばずにヒューマ族と呼ぶのか……勉強になるぜ。流石スムさん屋)



 内心では軽く言っているが、実に興味深い会話である。

 取り敢えず2人に会話を続けてもらう為にも、周囲の様子には気を付けておくべきだろう。


「でだ。さっきの野獣は影蝙蝠ソンブシェラゴって言う厄介な奴だな。コイツは直ぐに影に潜り込むから、一般的には武技で吹っ飛ばす! ってオイ、まさか武技……スキルの事も知らねえのか?」


 クムトの表情を見て、驚きを隠せないスム。


「い、いえ。スキルなら聞いた事あります。神様が頑張ったら授けてくれる物ですよね?」


「……一応は間違ってねえがよ。いいかスキルってのはヒューマ族が神に授かった恩恵を指し示すものだ。でだ。スキルには武技と魔導がある。魔導は知ってるな?」


「はい。村でおじさん達が魔導具を使ってましたから」


「いや魔導具って……魔導と魔導具は違うぞ。いいか、恐らくその魔導具は魔導輪だ。登録した魔導を発動させる魔導具が魔導輪だ。魔導を使っている時背中に光るヤツが出てなかったか?」


「あっ、はい、出てました」


「なら間違いなく魔導輪だな。っと、話が逸れたな。魔導に付いてだったか……スキルには武技と魔導の2つがある。まあ違いは俺にもよく分からんが、どちらも魔導輪で使用出来る。どちらかと言えば剣士が使うのが武技で魔導士が使うのが魔導だ」


「そ、そうなんですか…」


「そうなんだよ。本当に何も知らねえなお前。よくそれで今まで生きて来れたな」


「村では特に必要なかったですし……」


「だから田舎育ちは面倒なんだよ……」


 スムは大げさに溜息を吐き出した。

 一行は話に夢中になっていた為か、いつの間にか立ち止まっており、幼児達は話に飽きたのか疲れ果てていたのか、シュウにもたれ掛かる様にして眠っていた。

 流石にシュウは話を聞きながらも周囲に注意を向けていたが。

 連れが話に夢中になっているかそれとも眠っているかという無防備な状態で襲撃されるのは実にお断りだった。

 もし襲撃がありそうだったらシュウも会話を止めさせていただろう。

 だが幸運にも先の襲撃直後と言う事もあってか問題なく過ごせた。

 休憩にも成るしで丁度良いと考え放置していたのだ。

 スムも話に夢中になって注意散漫だった事に気付いたのか、珍しくも視線でシュウに礼を伝えてくる。

 クムトもその事に気付いたのだろう、恐縮しているようだ。

 シュウは気にするなとばかりに首肯しておく。

 実際の所、シュウにとって先程の会話はこの世界の事を知るよい情報源だった。

 必要な事がスラスラと会話に出て来たのだ。まるでシュウが知りたい事を答えるかのように。



(まさかな……流石にクムトが話を誘導したとは考えられんし。特に不自然な感じも無かったしな)



 やはりクムトの行動には違和感を感じずにはいられなかったが。




 会話も一区切りした所で一行は地下洞窟の散策に戻った。

 幼児達は眠そうだったが、取り敢えずシュウの背に跨らせておく。落とさない様にシュウが注意すれば問題ないのだから。

 これがもっと歳の行ったクムト位の年齢だと三人も背に乗せる事は難しかったが、相手は幼児である。特に問題ないだろう。

 とはいえ戦闘時には降りてもらう必要があったが。

 手に持ったランプで先を照らしながらスムが問いかける。

 ちなみにスムが持つランプも魔導具らしい。

 魔方陣という何やら掠った感じのネーミングの物が描かれているらしく、ランプの照明が途切れる心配はそうそうしなくても良いと言うのがスムの言だ。


「で? 地下から地上へ戻る道はどっちだと思うか?」


 視線を辿ればシュウに向いている。

 スムも誰も道など知らない事を踏まえた上での質問だ。要はシュウに決めろと言いたいらしい。



(そうだな……取り敢えずは左手の法則で行ってみるか?)



 左手の法則――それは迷路の攻略法の基本で、左側の壁に沿って移動するというものだ。

 勿論単純な迷路では無い恐らく自然の迷路で……敢えて言うならダンジョンと言っても過言ではあるまいが……そんな簡単な法則で出口へ辿り着けるとはシュウも思ってはいない。

 だが、まずは基本から試してみるのも悪くはないだろうという考えだった。

 シュウは前腕を左の壁に向かって指し示し、そのまま壁伝いを鎌でなぞる様に示す。


「まあ基本だよな」


「ですね」


 二人にも意図は伝わったようで反対意見は無かった。

 壁と言ってはいるものの実際にそこに壁が有る訳ではなく、鍾乳石で塞がれていない通れる場所での左側を指しているだけだ。

 あまり鍾乳石側に近づき過ぎると、今度は岩の間から何らかの野獣の襲撃があった場合に対応が出来ないと考え、ある程度の空間的距離を保った上でなるべく左側に沿って移動する事にしたのだ。

 方針が決まった事でシュウ達は本格的にダンジョンの探索に挑むのだった。

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