第11話 魔狩人
「待って! 僕達は敵じゃない! この施設に捕まっていたのを逃げて来たんです!」
クムトが焦ったように横合いから男に声を掛ける。
シュウは男が動きを止めた隙に追い打ちを掛けようと考えていたが、クムトの声に同様に動きを止めた。
「嘘つけ! 化け物連れて来て、敵じゃないってのは通じないぜ!」
「シュウさんは化け物じゃない!! 僕を連れ出してくれた恩人だ!!」
男の言葉に怒りを滲ませながらも、クムトが反論する。
「……ならその化け物の鎌を下させろよ。そうしたら話を聞いてやる」
クムトの勢いに押されたのか、男は妥協案を持ち掛ける。
(ったく化け物化け物って好き勝手言いやがって……まぁ、見た目は確かに化け物かもしれんが)
内心で溜息をつきながらもシュウは素直に前腕を下す。
その行動を見て、漸くクムトの言葉を信じたのか男も構えを解いた。
だがその視線は鋭いままで、こちらを警戒しているのが丸分かりだったが。
その事に関してはシュウも納得している。
初めて会った相手を、それも自分の様な化け物のような見た目の相手を、何の警戒もなく素直に信じる方がどうかしている。
逆に簡単に信じる方が怪しいとさえ思ってしまうだろう。
(まぁ多少は話が出来る雰囲気になったのはよかったが、後はクムト次第だな……俺ってば会話不可だし)
仕方ない事とは言え、会話さえままならない自分に盛大に溜息を吐きたくなる。
戦闘において幾らか有利であろうと、日常生活に支障をきたすレベルではデメリットが大きすぎる。
取り敢えずシュウは成り行きを見守る事にする。内心ではクムトを絶賛応援中だったが。
「……これで話を聞いてくれますか? 僕の名前はクムト。あちらはシュウさん。2人でこの施設を脱出しようとしている途中です」
「ほぉ。その割には物騒な挨拶だったが?」
「それは、あなたが……えっと……」
クムトが何について口ごもっているのか気付いた男は、態とらしく溜息を吐きながら答える。
「俺の名はスム。しがない魔狩人だ」
(魔狩人? 何だそれ?)
クムトもシュウと同じく理解出来なかったようで不思議そうな顔をする。
「魔狩人って狩人と違うんですか?」
素直に問いかけるクムトにスムと名乗った男は憤慨気味に撒くし立てる。
「狩人と一緒にすんじゃねぇよ! 俺ら魔狩人は魔物を刈るのが仕事だ!」
(……やっぱこの世界にも魔物っているんだな。で、魔狩人ってのはラノベで言う所の冒険者とどう違うんだ? それにしても俺が読んでいたラノベとは結構違いがあるよな。魔法じゃなくて魔導だとか、魔導を使うのに魔導具が必要だとか、魔導を機関銃の様に撃ってくるとか。更に魔狩人? 訳分らんわ。マジでヘルプ機能とかないの? ちょっとハード過ぎやしませんかねこの世界?)
内心で捲し立てる様に不満を羅列していく。当然だが表面には出しはしない。
クムトはクムトでスムの迫力に押され気味になっていた。
「えっと、と、とりあえず僕達がここに来たのは出口を探しているからなんです。正直この施設内の地理なんか知りませんし……」
「ってことはだ、二人揃って迷子ってか?」
スムはさも可笑しそうに笑う。正に嘲笑と言う言葉が当て嵌まりそうな程、嘲りを多分に含んだ笑いだ。
「ま、迷子って……まぁ確かにそうですけど。ただ、好きで迷ってはいないですよ」
「そりゃ当然だろ。まぁ話は一応分かった。本当の事を言っているかどうかは分からんがな」
「こんな事で嘘なんてつきませんよ!」
(ちょっとクムトがヒートアップし過ぎだな。相手のペースに乗せられちまってるわ)
シュウは歩脚を曲げ態勢を低くすると、落ち着けと伝える様にクムトの頭に優しく手を乗せる。
「あっ……」
クムトもその事に気付いたのだろう。恥ずかしそうにシュウの顔を見返した。
「ふん。そっちのデカブツは話が分かりそうだな。何で喋らない? いや、喋れないのか?」
「グガゥ」
一応返事を返してみる。スムは溜息を吐くと態と聞こえる様に呟いた。
「デカブツは喋れない。対応はガキがするか……」
「が……くっ! はぁーーっ、ふぅーーっ」
再び激怒しそうになるのを抑える様にクムトは一つ深呼吸する。
「……とりあえずスムさんは出口を知りませんか? 脱出する気なら協力するのも吝かではありませんが」
「ケッ! 協力してくださいの間違いだろ……まあいい。俺も詳しい道は知らんが脱出したい事は否定しない」
「そうですか。お邪魔しました。ならお互い気を付けて脱出しましょう」
そう言って踵を返そうとするクムトをスムが止める。
「まぁ待てって。出口は知らんが協力はしてやる。一人より三人の方が脱出し易いのは間違いねぇ。それにデカブツは戦力としては使えるだろ」
「……僕たちを利用しようって事ですか?」
「お互い様だろ。お前らも俺を利用すりゃいい。出来る事は協力してやる。取り敢えずは情報提供だ。隣にガキが捕まってる筈だ。助けるかは好きにしな」
「助けるに決まってるでしょ! 持ちつ持たれつですか……分かりました。シュウさん、いいですか?」
シュウは頷くともう一度優しくクムトの頭に手を乗せた。それを見てスムが不機嫌そうに言う。
「ならさっさと行くぞ。俺はこんな所に長居する気はない」
「僕たちも同じですよ。とにかく隣に行ってみましょう」
スムの言葉にクムトが返事を返す。通路に居たシュウは二人を一瞥するとそのまま隣のドアへと移動を開始した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます