第9話 一緒に行動しませんか?
(おい、大丈夫か?)
修二は腰を抜かした少年に思わず素で声を掛ける。
「グルォルル?」
当然言葉にはならず、唸り声の様になってしまう。
「うわぁ! な、何が言いたいの?」
(あっ、わ、わりぃ!)
急に化け物に吠えられたと言うのに、驚きながらも少年が対話を続けてくれる事に修二は感謝した。
と同時にスマンという思いから素直に頭を下げる。
「ん? まさか…君は喋れないの?」
正にその通りなので素直に首肯しておく。
「そう……そうだよね……そんな身体じゃ……い、いや、わ、悪い意味じゃないよ!」
(ほう。俺のこの姿を怖がらないだけでなく、気遣いまでする余裕があるのか)
修二は素直に感心していた。
その歳で相手を思いやる行動……これが現実社会であったら出世するだろうと思う。
社会では空気を読める者がかなりの確率で出世する。コネでもゴマでもない限りはと付くが。
要は社会人は気遣いが大事と言う事だ。思ったことをそのまま声に出して許される程社会は甘くないのだ。
この発想は日本社会での話だ。だが例え異世界だろうと人との繋がり方はそうそう変わるものでもないだろう。
少年の見た目から年齢は十代前半位だと予想される。
恐らくは自然とこの少年はやっているのだろうが、だがそのくらいの年齢の少年は得てして他人をそこまで思いやる事は出来ない。
意識せずとも思った事をズバズバ言ってしまうものだ。
となれば……この少年は見た目に反して年齢を重ねているか、もしくは自分と同じように召喚なり転生なりをして日本からやって来たのかどちらかの可能性が高くなる。
勿論、天性の素質で出来ているのかもしれないが、修二の直感はそれは違うと訴えている。
(……少し様子を見た方がよさそうだな)
この少年に対しては結構ドライに構えていないと不味い気がするのだ。勿論この先一緒にいる事を前提としてだが。
そう、修二は少年と行動を共にしようと考えていた。
まず第一に自分は言葉が喋れない。第二に見た目が化け物だ。第三に……何故か行動を共にした方がよいと直感が告げているのだ。
そして修二は今まで自分の直感を信じて行動してきた。少なくとも記憶にある限りはだが。
(まずはどう切り出すかだな。会話が出来れば苦労はないんだろうけどな……こればっかは仕方ないか)
何かを考えこんだ修二に気付いたのか少年が話しかけてくる。
「君、気を悪くしてない? 僕は人付き合い下手だから……もしそうなら謝るよ」
どうやら怒っていると捉えられたようだ。だが、それならばそれで問題ない。
様はどうやって行動を共にするかである。上手い具合に話を纏めなければならない。
「クォン」
不自然に感じないように優しく吠えると、少年を指さしその後自分を指さす。その後にコテンと首を傾げるのがポイントだ。
少なくとも自分が何か言いたいと言う事は伝わるだろう。
後は相手が伝えたい事と同じ質問をしてくれれば頷くだけで事足りる。
「何? ん? え~と…名前?」
ちょっと違ったが首肯しておく。
どっちにしても聞いておく必要がある内容だ。
「ああ、僕の名前はクムトって言うんだ」
修二は首肯すると、今度は自分を指さしながら懸命に声にしようとする。
「フォン」
「ふぉん?」
息を吐くように。
「フゥー」
「ふー?」
もう少し力を抜いて息を吐き出す。
「シュー」
「しゅー?」
(まぁ、こんな感じで満足するしかないな。取り敢えずは近い名前になったはず)
綽名的な感じに聞こえるだろうと判断し一度首肯する。
そして再び自分を指し示して同様の言葉に聞こえる様に意識しながら息を吐き出した。
「シュゥゥ」
「ああ、シュウって言ってるのか。名前、シュウ…さんでいいのかな?」
「グォ!」
(そうだ。俺はお前より恐らく年上のはずだ……多分。さん付け位はお願いしたいものだな)
「そう。えっと…年上…だよね? 僕は十四歳なんだけど」
どうやらクムトは十四歳だそうだ。本当か定かではないが。
一応はそのつもりで対応しようと思いつつも取り敢えず肯定しておく。
「あっ、やっぱりそうなんだ……何か年上の人と話しているような感じがしてたんだ。あっ、敬語はあまり得意じゃないので許してほしい…です」
「グルゥ」
気にするなとばかりに軽く吠える。
(さて自己紹介も終わった事だし)
次にやるのはサッサと此処から移動する事だ。
狼男の手を使って先ずは自分を指さし、次いでクムトを指さし、そのまま指を出口へと向ける。
「えっと……移動しようって言っているのかな?」
「グォ!」
肯定する様に軽く吠え、そしてそのまま後方へと移動する。体格的とスペース的に振り向けないので実際は後退しただけだったが。
壊れた扉の所で一時止まって付いて来いと言うように腕で合図を送る。
「逃げようって言ってるだよね? その……僕も一緒に行ってもいいかな?」
「ウォン」
「じゃあ、その…これから宜しくお願いします」
ペコリとクムトが頭を下げる。
こうして時間を掛けながらも何とかクムトと行動を共にする事に成功した修二は、早速とばかりに部屋から巨体を通路へと後退させる。
と同時に和肥留修二の名は伏せ、今後はシュウと名乗ろうと決めたのだった。
チリン――
何処かで鈴が鳴ったような気がした。
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