第8話 お仲間との出会い
何とか部屋から脱出した先にある空間は、クリーム色の色彩で統一された壁にランプが各所に設置されており、暗くも眩しくもない丁度な光量に保たれていた。
通路自体思っていたよりも広く、さすがに方向転換は厳しそうだが修二の体格でも歩くのには苦労しなさそうだった。
路面は凹凸の高低差も無くなだらかでしっかりと人の手によって整備されているようだ。
部屋の造りといい結構重要な施設であるように修二は感じていた。
通路は左右に伸びており、右側対面二部屋に左側対面二部屋と、今迄居た実験室と言える部屋の扉が通路の中央に位置している間取りだった。
左右の通路の突き当りも同じようにT字型となっており、左右の違いがほぼ無いように見える。
(さて、どっちに行くかね)
こんな時は自分が合成獣である事に感謝する。
三百六十度の視界はありがたい。どちらに進んでも後方の視界を確保しながら進める。不意打ちなど御免被るのだ。
(そう考えると一昔前のレトロなダンジョン探索ゲームでは考えられない親切設計だな。ゲームっていえばとあるRPGの勇者は人の家のタンスを漁りまくるんだったな……)
どうやら修二の趣味にはレトロゲームも含まれていたらしい。
そんなどうでもいい事を考えながら、修二は直感で左側に進んでみる。
少し歩いただけで最初の部屋のドアまで辿り着く。
戦闘時にも思ったが、何気にこの蜘蛛の身体は機敏に動けるのだ。それも前後左右自由自在に。
やろうと思えば横歩きでさえ同速度で動けそうだ。
それは兎も角として、今は目の前にあるドアを開くかどうかだろう。
現在見えているだけで四部屋もあるのだ。
突き当りの先の通路にも別の部屋がある可能性が高い以上、後顧の憂いは断って置くべきだろう。
部屋をチェックしなかった為に後方からあの機関銃のような魔法を食らうのは勘弁である。
確かに部屋には黒ローブの老人の仲間が居る可能性もあるが、サコィ達の様に捕まっている人がいるかもしれないのだ。
(取り敢えず、色んな部屋を物色してみるしかないな)
気分は既にレトロゲームの主人公である勇者であった。
扉の造りは古い家屋にあるような丸いドアノブを回して開くものだった。
修二は上半身の手を伸ばし、扉のドアノブを掴むと……そこで一度動きを止めた。
最初に居た部屋が内開きの扉になっていたのは、恐らく対象生物が逃げ出した際に室内に閉じ込める為と、黒ローブの老人達が行ったような緊急対応をし易くする為だろう。
だがこの部屋は外開きである。広い通路とはいえこの身体でドアを開くのは邪魔になるし少々億劫でもある。
この周囲の部屋に敵対するような人物は恐らくいないとは思うがすでに色々と騒いだ後である。
仮に灰色ローブの男達の仲間がいたとしてもそれは今更の話だろう。
監禁されていた人が居る可能性もあったが、居たら居たですでにどこかに逃げ出した後だろう。
修二はそう考えると一旦ドアノブから手を離す。
(て事で、ここは一気に行きますか! 鎌の用意はOK? 中に人が居たら、部屋の隅でガタガタ震えとけ!)
両腕の鎌に力を籠めていく。
(せぇーのぉ!)
「グォ!」
気合を入れる様に短く吠えると、修二は前腕の両鎌を使ってドアを一気に吹っ飛ばす。
Xの字に切られたドアは、結構な音を響かせながら、破片を室内に飛び散らせた。
「うぉぅ! あ、あぶな! 初っぱなから突然かよ……勘弁してくれ!」
……どうやら本当に人がいたらしい。
ドアの前に立っていて人の存在に気付かなかったのは失敗だ。それとも蜘蛛の感覚を持つ修二に気づかせなかった中の人物を褒めるべきだろうか?
(ま、まぁ、あぶねーみたいな事叫んでたし、当たってねーだろ。ノーカンだノーカン)
修二はドアの残骸を踏みつぶしながら、室内に前腕を構えつつ、ゆっくりと警戒しながら侵入する。
(おぉぉぉぉ!)
目に飛び込んできた光景に修二は驚きよりも感動を感じていた。
目の前にあるのは光る壁。緩やかな放物線で描かれた複雑でありかつ芸術的な幾何学模様の光の障壁。
その見事な見た目に反して、飛んできたドアの破片が近くに飛び散ってるのは、障壁がその役目を果たし術者を守ったからに相違ない。
(ファンタジーすげぇな。魔法まじでぱねぇわ)
警戒心も何処へやら、修二はその幻想的な光景に見入っていた。
だが、聞こえてきた言葉に現実に引き戻される。
「何っ、魔も……あっ! い、いや、人なのかな?」
光の障壁の向こうに居た術者と思われる少年が叫び声を上げかけて止め、代わりに憐憫の眼差しを送ってくる。
「グォ?」
「…な、何? その…ちょっと見た目がアレだけど、君は人…だよね? 僕は此処に連れて来られたんだ……君も…だよね?」
修二の反応に戸惑いながら、声を裏返らせつつも返答する少年。
年の頃は十代前半か、黒髪に黒い瞳。日系の顔つきをしている。
少し野暮ったい布の服を着ているが、それが少年に似合っており親近感を醸し出している。
ある意味この少年は大した奴だと修二は思う。
修二自身自分の姿を始めて見た時は言葉を無くしたものだが、この少年は結構……平気そうにしている。流石に顔は引き攣っているが。
取り敢えずはここで少年を怖がらせても仕方ないと思った修二は、少年の言葉を肯定するようにゆっくりと首肯する。
「そ、そう…やっぱり……僕達、お仲間だよ」
フゥと少年は安堵の息を吐くと、気が抜けたように翳していた手を下げる。と同時に唐突に光の障壁が消えた。
どうやら予想通りあの光は少年が作り出していた物らしい。
少年は半立ちだった姿勢を崩し、腰が抜けたように座り込むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます