第3話 初めての戦闘

 不意に部屋の扉が荒々しく開けられる。

 騒ぎに気づいて駆けつけて来たのだろうか。息を軽く弾ませた五人の灰色ローブの男達の姿が見てとれる。

 その後ろに一人だけ立派な黒ローブを纏った男がいた。

 白い顎鬚が長く伸びており、髪も同様に白髪の老人だ。

 ローブの端から見える手は細く、顔も痩せて頬もこけている。

 だが、その瞳だけは風貌と反比例するかの様に好奇心に溢れていた。


「◇■#&▼!」


 灰色ローブの男達は剣呑な目付きでこちらを睨みながら何か喚き叫んでいる。が生憎と修二には言葉は解らない。


「グルルルゥ!」


 威嚇する様に唸るサコィに対し、老人は落ち着いた様子で灰色ローブの男に静かに声を掛けている。

 その様子から老人は絶対の安全を確信しているか、余程自分の力に自信があるかのどちらかなのだろうと思われる。

 楽しそうに笑顔を浮かべるその姿に、修二は焦りか苛立ちかは分からないが、険悪な雰囲気を漂わせる灰色ローブの男達とは全く異なった生き物の様に思ってしまった。


「#△%●!」


 何かの言葉を灰色ローブの男達が呟くと、その途端に背中から光の様な物で出来た幅広の剣の刀身のようなものが三本現れる。

 三方向に扇状に角度を付けて直立する様はまるで後光を背負っているかの様だった。

 灰色ローブの男が素早い動作で腕をサコィに向けて翳した。

 奇妙な図形が男が翳した掌の前を中心として渦を巻くように複雑な図形を描き出す

 次の瞬間。何かがこっちに飛んでくるのを修二は感じ取った。



(避けろや! サコィ!!)



 思わず修二は叫んでいた。

 そう、宙に描かれたのは魔法陣。飛んできたのは恐らくファンタジーの王道である


――魔法。


 炎や水という様な目に見える物質では無かった。だが修二には確かに空気が動いている様に感じられたのだ。

 まるで蜘蛛の身体の蝕肢が感覚的に伝えているかの様に、空気が収束しかなりの勢いでこちらに向かって流れてくる事が分かったのだ。

 恐らくは風の魔法……受け取った感覚から考えて風の弾丸と言った所だろうか。

 修二の声に反応してかサコィにも動きがあった。


「ウオォォォォン!」


 上半身の狼が力強い咆哮を轟かせた。

 咆哮は大量の風を孕み、大砲の様な風の塊を前方へと迸らせる。

 サコィの放った風の砲弾は、飛んで来た風の弾丸をいとも容易く掻き散した。


「「「「「………」」」」」


 即座に動いたのは老人の指示なのか、それとも訓練の賜物か。それは分からないが五人の灰色ローブの男達は無言でこちらを囲むように周囲にばらける。

 サコィを中心に囲むように立った男たちは、次々とサコィ向け腕を翳す。


「「「「「#△%●!」」」」」


 何かを叫ぶと男達の背に、先に見た光の剣が其々三本づつ生まれた。

 次の瞬間には翳した掌の前に魔法陣が描かれ、そのまま連続して魔法を飛ばしてくる。

 使っている魔法は同じ様だが数が違う。まるで機関銃でも撃ってるかの様に連続して飛翔する魔法の弾幕だった。



(ふざけんなよ! 詠唱もなく、そんな簡単にバンバカ魔法使ってくんじゃねぇよ!)



 ゲームやラノベとかの知識から考えれば、魔法を使うにはとかく呪文が必要なはずだった。

 だがこの灰色ローブの男達はその常識を覆し、更には連射までしているのだ。思わず修二が叫んだのも仕方のない事だろう。


「ガァ!」


 さすがにその弾幕は避けきれないのか、サコィは小さく唸ると両腕をクロスさせ顔面をガードする。

 いつの間にかサコィの身体の色が変わっていた。

 紺瑠璃色と銀灰色だった狼の毛は鈍い鋼色に、蜘蛛の艶のある濡羽色は艶の無い黒色へと全体的に暗めな彩りに変化していた。

 さらに人体部分である上半身は肥大化し、ガッシリとしたボディビルダーの様な体格に変わっている。

 更に腕のみを巨大化させたのか、上半身と同じ位の大きさにまで腕が変化していた。

 サコィはその巨大化した両腕をクロスさせる様に眼前に上げるとガッチリと防御を固める。

 次々とサコィへと風の弾丸が降り注ぐが、変化した身体の防御を抜けないのか、破裂音だけでサコィは大してダメージを負っている様には見えなかった。



(耐えられる……のか? 奴らの魔法、連射は利くが威力が低い? いけるぞ! サコィ!!)



 サコィは両腕でガードをしつつ歩脚を使い弾幕の中を突っ切る。

 そのまま灰色ローブの男の一人に近づくと巨大な腕を伸ばしその身体を捕まえた。


「△●!?」


 捕まった男が何かを言っていたが、サコィは関係ないとばかりに巨大な腕でそのまま男を身体ごと握りつぶす。


「■◇*#▽$!?」


 一人欠けた事で動揺したのか弾幕の精度が下がった。


「#△%●!」


 と――声と同時に風を斬る音が響いた。



(ぐぉっ!)



 鋭い痛みが身体中を駆け回った様に感じた気がしたが、気のせいなのか実際には痛みは感じていない。



(いや、勘違いじゃねぇ!)



 眼前で右腕が半ばから切断されて宙に舞っていた。

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