第84話 金貨五百枚
防具コーナーを抜けたシュウ達は、そのまま魔導具のコーナーに足を踏み込んでいた。
流石に魔導具はそのまま展示されておらず、ガラスのケースに収納されている。
シュウはお目当ての物が無いか探してみるが流石に形も分からない。
即座に無理と判断したシュウはクムトに店員に聞いてもらう様に頼んだ。
クムトも承知していたのかシュウに代わって店員に話しかける。
「すみません」
「はいはい。坊っちゃん、何がご入り用で?」
分かりやすく揉み手をしながら話しかける店員に、内心で苦笑しながらも澄ました顔で問い掛ける。
「はい。収納の魔導具とか扱ってないですか?」
クムトの質問に驚きと飽きれとが混ざった様な表情で店員が浮かべた。
「いやいや、坊っちゃんのお小遣いではとてもとても……」
「幾ら位なんですか?」
「珍しい品ですからね。勉強させてもらっても金貨五百枚は掛かりますね」
「ご、ごひゃ……」
流石にクムトも余りの金額に目を白黒させる。
「誰に贈られるんですか?」
「ち、父に……」
「ならこれならどうでしょう……これは……」
シュウはクムトに話しかける店員を無視して思考に耽る。
(うん、無理だな。流石に金貨百五枚は依頼を受けても手が出らんわ……となるとやっぱ手作りか? ティルとなら何とか出来るか?)
思い至ったのは自分の糸とティルの想像転写だった。
想像転写ならティルのイメージ次第で収納の魔方陣を組み込めるかも知れない。
「と、取り敢えず、今日は帰ります」
「そうですか。まあ収納の魔導具は無理ですけど、坊っちゃんのお小遣いで買えそうな物も取り扱ってますからお気を落とさず……」
「はい。ありがとうございます」
上手い具合に話が切れたようだ。
この流れでこの場を後にすれば角も立つまいと、シュウ達は魔導具コーナーから足早に移動するのだった。
「いやーいい買い物だったわ」
ホクホク顔でそう言うティルに、興味が引かれたのかクムトが問い掛ける。
「そんなに良い物が買えたの?」
「ううん。良い物じゃなくて、安く買えたの。何と魔導筆が三本で銀貨二枚! いやーお得だったわ」
「……それって大丈夫なの?」
逆に不安そうにクムトが尋ねる。
「まあ大丈夫じゃろ。元々ティルには不要じゃからな」
「でもさ、魔導筆が有るのと無いのだと有る方が楽に魔方陣が描けそうなんだもん」
「うむ。じゃから大丈夫じゃと言うとるのじゃよ。魔導筆はティルにとってあくまでも補助的な役割しか持たんからの」
そう言いながら通りを第三区画の宿へ向け歩く。
ティルは予想以上に合流に時間がかかった事に不思議そうにクムトに問いかける。
「それはそうとクムト達は何やってたの? 結構時間掛かってたけど?」
「うん。収納の魔導具を見てきたんだ。まあ、とてもじゃないけど買えそうになかったけど……」
「ほう。そんな物も取り扱っておったのか」
デュスも流石に魔導具に関しては興味が引かれたのか話に混ざってくる。
「で、幾らだったの?」
「……金貨五百枚」
「ほえ?」
「な、何と……」
クムトの提示した金額の余りの高さに二人の足が止まる。
呆然と立ち尽くす二人に苦笑しながら話を続ける。
「ね。とてもじゃないけど買えないよ。僕も初めて聞いた時は驚いちゃったしね」
「……そりゃまた法外じゃのう」
「無理よ無理! 買える訳無いじゃないの、そんなの!」
全力で否定するティルに横合いからシュウが言葉をかける。
「まぁな。でティルに相談なんだが、収納の魔方陣をお前が袋に仕込んでみないか?」
「えっ?」
突然のシュウの提案に二重の意味で驚くティル。
「まぁ駄目なら駄目でいい。取り敢えず試してくれるか?」
「そ、そりゃあ試すのはいいけど……あんまり自信無いわよ?」
「あぁ出来たら儲けもの程度でいい」
「な、ならいいわよ」
「助かる」
シュウに自信無さげに答えるティルだったが、シュウは元々無理な事は承知で頼んでいるのだ。本当に出来たなら儲けもの程度にしか考えていない。
無論、出来たなら金貨五百枚の価値があるのだ。シュウもおふざけで言っているのではない。
やるだけの事はやって無理なら素直に諦めるだけの事だ。
「なら宿に戻ったら試してみるか」
シュウはそう言うと再び宿に向かって歩き出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます