第83話 総合店舗
野獣やアビリティ、神についてはある程度は調べ終えたが、まだシュウにはどうしても調べたい物があった。
「スマンが皆にも手伝って欲しい事がある」
何時もと違い、重々しい雰囲気を漂わせながら言うシュウに、皆の表情も真面目なものになった。
「調べるのは、野獣と人との分離方法についてだ。当然それを専門に書いた書物はないだろう。だが、何でもいい。少しでも情報がないか調べて欲しい」
クムトは直ぐに、それがあの洞窟で別れた蜘蛛である事に気づいたが、他の皆は何故そんな事に、シュウが懸命になっているか解りかねていた。
ヒューマ族に分離と言われても、シュウ自身が自分の体について、何かを言った事は今まで一度も無いのだ。
そもそもシュウ自身がこの世界の生まれではない。
得にヒューマ族に拘りがあるとも思えない。
「……どう言う事か詳しく聞きたいがの、時間は有限じゃ。兎に角、今はシュウの求める情報を探すのを優先すべきじゃろ」
「そうだよね。私も頑張って探してみるよ」
「僕は司書の方に何かないか当たって来ます」
皆、何も聞かずにシュウの願いを聞き入れ、早速調査に赴こうとしていた。
「……ありがとう。感謝する」
何時になくシュウは生真面目に、深く頭を垂れるのだった。
その後、皆で閉館の時間まで情報を集めて回ったが、これといった情報は全く無かった。
シュウは何も情報を得る事が出来ず、重苦しい雰囲気を漂わせていた。
余程、この件はシュウにとって重要なものだったようだ。
「……気を落とすでない。他の町にも図書館は在るんじゃ。」
「そうだよ。私達も探すのを手伝うからさ」
デュスとティルも、いつもと違うシュウの様子に心配げな様子を見せる。
「……そうか…そうだよな。図書館は何も此処だけじゃない。何処かに情報が在る筈だ……きっと」
「そうですよ。これからです。ここからまた探し始めればいいんですよ」
クムトの言葉にシュウは、漸く笑顔を浮かべて頷くのだった。
その顔にはもう悲壮感はない。あるのは諦めない意思だけだった。
その後、内庭からシュペルを回収して図書館を出たシュウ達は、旅宿に戻る序でに武器屋を覗こうと第二区画に足を運んでいた。
特に今直ぐに武器防具を購入する訳ではないが、今後ギルドで依頼を受け資金が溜まって後に装備を一新しようと考えての事だった。
また単純に魔導具屋に使える魔導具がないかを確認する意味合いもあった。
ぶらりと店先を眺めながらシュウ達は歩いていたが、ティルが一軒の店先で足を止める。
「ちょっと待って!」
「うむ? どうしたんじゃ?」
デュスが足を止めたティルに近づきながら声を掛ける。
「うん。前にデュスが言ってたじゃない、魔導筆を使ってないのかって。何か結構捨て値っぽく売ってるから見てみたいなぁと思って……」
「いいんじゃないですか。なら覗いて見ませんか?」
「いいの?」
「あぁ。構わん」
シュウの言葉にティルが嬉しそうに店へと駆け出していく。
「そんなに急がんでも……全く子供じゃの」
デュスも苦笑しながらティルの後を追う。
「シュウさん、僕達も行きましょう」
「あぁそうだな」
クムトと連れだって、シュウも店へと向かうのだった。
そこは魔導具の他に武器と防具の両方とも扱っている総合店舗だった。
店先には売り出し品や目玉商品が見栄えよくディスプレイされており、見た目にも楽しそうな店舗だった。
その店先の片隅にティルとデュスは半立ち状態で、魔導筆の入った木の箱を覗き込んでいる。
クムトとシュウは魔導筆は二人に任せて他の装備品を見に店内へと足を運んだ。
今の所持金だと略何も買えないが今後の為に商品を見て回る事にしたのだ。
丁度今は防具コーナーに立ち寄っており、クムトが面白そうに防具を観覧していた。
目の前には客の興味を引きそうな派手な鎧や、武骨ながらも何処か気品さを感じさせる胸あてが飾られている。
「シュウさん、シュウさん。色々在って迷いますね」
いつもより若干テンション高めのクムトが声を弾ませながらシュウに話しかける。
現代から異世界に来たのだ、男なら多少武器防具と聞けばテンションも上がろうというものだ。
「まぁな」
そういうシュウも内心では興奮気味だった。
趣味にゲームやラノベを嗜んでいた男である。これだけの防具が並んでいるのだ、この壮観な眺めについつい頬が弛みそうになってくる。
「あっ、これなんか軽くて丈夫そうですね」
どうやらクムトの目に留まった防具が在るようだ。
「ん? どれだ?」
シュウもクムトに近づくとクムトが手で触れていた革製の胸あてに注目する。
「ほう。渋そうで見た目は格好いいな」
染色されているのか少し薄黒い感じの革製にシュウも興味を引かれる。
「ええ。書いてある説明に由ると、
クムトが楽しそうにする説明にシュウも実際に胸あてを手に取ってみる。
確かに思っていたよりも軽い。
(これなら動きを阻害しなさそうだな)
シュウは異世界の防具の手触りにいつになく興奮しているのを自覚していた。
(やっぱ俺も男だなぁ。何処かロマンを感じるわ)
「これならクムトが装備しても問題無さそうだな」
「そうですよね! いいなあ……これ……」
流石に無い袖は振れない。
クムトはうしろ髪を引かれるようにしながら胸あてを棚に戻す。
「なら依頼料が入ったら今度これを買いに来るか?」
あまりにも残念そうに見えるクムトにシュウはそう問いかける。
「あっ、そんな訳じゃ……」
「どうせ必要になるんだし、気に入ったやつを買っても問題ないだろ」
焦った様に否定するクムトをシュウは然り気無く諭す。
別に嘘を言っている訳ではない。クムトの安全を考えれば丁度良い機会だとも思っていた。
「あ、ありがとうございます」
恐縮そうにしているクムトの頭に優しく手を乗せる。
クムトもシュウの気持ちに気づいたのか、嬉しそうな表情を見せるのだった。
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