第81話 アビリティの考察


 シュウがこれ幸いとデュスと大人としての意見を聞こうと質問しかけたのと、丁度ティルが戻って来たのは同じ位だった。


「お待たせー。いやー魔方陣って結構種類が在るんだね。知らない事が多かったよ」


「ならば無事本は見つかった様じゃな」


「うん。初心者用の本しかなかったけど、それでも驚きだったよ」


 ティルが興奮して言ってくる。


「何が驚きじゃったのかの?」


「うん、あのね。今迄は火とか水とか形が在る物を、魔方陣で呼び出す物だと思ってたんだけどね。これってば、何かの行動と言うか動きとかも魔方陣で出来るみたいなのよ!」


「ほう」


「だからね、もしかがり火なんかが目の前にあったら、それを飛ばす魔方陣を描く事で、なんと火の魔導の様に相手に向けて飛ばせるみたいなのよ! これってば凄い発見だよねー!」


 興奮して目をキラキラと輝かせながらティルは楽しそうに言う。


「ほぅ、それは色々応用が出来そうだな」


「でしょでしょ!」


 シュウの反応に更に陽気になるティルを、デュスは温かい目でティルを見ていた。

 それはまるで祖父が孫の成長を見守る様な視線だった。


「ところでな。ティルには悪いが先にこっちを手伝ってくれないか?」


「ん? どうしたの?」


「あぁ、アビリティを調べたいんだが、野獣の種類が分からん」


「あっ、そうだったね……シュウは字が読めないんだった。じゃあスキルブックで見た内容なんか分かんないよね」


 シュウの発言に理解が出来たようで手を打った。そして小首を傾げながら、描かれていた内容を思い出し言葉にしていく。


「えっと……角粘軟、鬼巨人、鎌蜘蛛でしょ、それから……風牙狼……影蝙蝠……愚者火 ……だったはず」


「成る程の。一つずつ説明していくのじゃ」



鬼巨人 デモンロウシュ


邪小鬼と呼ばれる野獣が進化した存在と言われる。

鬼巨人は集団行動は滅多に行わない事で有名である。

但しその巨体から放たれる一撃は大地をわるとも言われている為、出会ったら余程の事象が無ければ戦闘は避けた方が無難である。

尚個体差にも依るが、体力も回復するらしく、大した傷も徐々にではあるが傷が塞がっていく事が確認されている。

身体は怒り状態になると色が変わり、更に攻撃力と防御力が格段と上昇する為、撤退も視野に入れる事をお奨めする。


能力

怪力・硬化・回復



鎌蜘蛛 ラーニファルチ


触肢が大きな鎌状になっているのが特徴の大蜘蛛の野獣。

尾節を有しており、先端から糸を吐き出す事が出来る。

通常は巣を張り巡らせ巣糸に絡まった獲物を食する為、蜘蛛の巣に注意すれば良い。

但し一度戦闘状態になれば、触肢を使って攻撃をしてくるので危険度は高い。

またある程度の損傷を受けると興奮状態になり、触肢の鎌から熱を放ちはじめる。

この状態になると厚めの鉄板すら切り裂くので、その危険度が跳ね上がる。

接近するのは要注意である。

鎌蜘蛛は危険度が高い為、巣を見つけたら焼き払うのが基本とされている。


能力

念操・思念糸・赤刃鎌



風牙狼 ヴィルクヴォルク


灰鈍狼が特異な進化を遂げたとされる野獣。

灰鈍狼と群れで現れると言われている。

灰鈍狼と違い風を纏わせた咆哮を飛ばしてくる事がある。

その威力は然程でもないが範囲が広く回避は難しい。

特徴として瞬間的な高速での移動を行う為、気付いた時には眼前に現れたという話には暇がない。

咆哮以外は灰鈍狼と同様に牙と爪での攻撃しか行わない。

群れの中に風牙狼の姿を見つけた場合は優先して倒すことが推奨されている。


能力

魔嗅覚・風咆哮・疾駆



愚者火 イグニトゥス


死んだ者の魂が形を取った物と言われているが定かではない。

墓地等で稀にその姿が確認されている。

常に宙をさ迷っており、近付くと電撃を放ってくる。

電撃の射程は然程でも無いが、近寄らない事が推奨されている。

その生態については未だ解明されていない。

物理攻撃に耐性を持っており、風または水の攻撃が推奨されている。


能力

球電・暗視・飛行



 デュスの説明を聞いたシュウは、各々が持つアビリティに付いて思考していた。

 鎌蜘蛛ラーニファルチ風牙狼ヴィルクヴォルクについては想定内だったが、鬼巨人デモンロウシュ愚者火イグニトゥスに関しては予想とは違う能力だった。


鬼巨人デモンロウシュの回復と硬化のアビリティはまぁ予想通りだったが、腕が巨大化してたのは角粘軟コルノリモの変体で、攻撃力が上がったのが怪力なのか……)


 イメージで行っていた為、アビリティを複合して使っていたとは、シュウも思ってもいなかった。


(で、飛行は愚者火イグニトゥスの能力か……暗視もかよ……予想外だったな。影蝙蝠ソンブシェラゴかと思っていたが、さっきは書いて無かったようだし、まぁ問題なしだな。後は……球電か……)


 今回シュウが特に注目していたのは潜影、怪力、念操そして球電だった。

 潜影は影に潜る能力。つまり回避と移動に使えないかと考えたのだ。

 次に怪力だが、今迄は腕を巨大化して使っていたが今後は無理に巨大化しなくても使える可能性が出て来た。そうなれば使い勝手は更に上がるだろう

 まして怪力は腕だけとは限らない。足でも使えるかもしれないとシュウは想像を膨らませていく。

 そして念操。考えるに糸を思った通りに動かせるアビリティである可能性が高い。

  網目状にしたり、斬糸にしたり、糸弾にするなど、以前から色々と器用に使えていたが、まさか糸の一本一本を操る能力だとは思いもしなかった。


(これも、要確認だな)


 そして何より球電である。

 射程は未だ分からないが遠距離攻撃の可能性があるのだ。

 何より球電という名称から考えても雷の攻撃手段である。

 上手く利用出来れば、新たな切り札に、いや必殺技にすらなりそうな予感がする。


(一応これで全部か……試す事が多くなったな)


 漸く全ての使用できるアビリティが出揃ったのだ。

 未だ上手く使えない疾駆も含めて、シュウは新たな能力の可能性に胸を高鳴らせていたのだった。

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