第80話 パヌエ大図書館
パヌエにある図書館は第一区画の大通りに面した教会の隣に併設されていた。
図書館と教会は内部通路で繋がっていたが、教会用と図書館用に入口は別にあった。
その為シュウ達は意図的に教会側をスルーし、図書館用の入口に向かって歩いて行った。
それなりの規模と外観を誇っている教会だったが、シュウ達は誰一人として教会に興味を示さないでいた。
デュスですらクムトから説明を聞いて、神に対する不信感を感じていたからである。
何事もなく図書館に無事入る事が出来たシュウ達はその蔵書の数に少し感心していた。
外観から観た感じでも図書館はかなりの大きさを持っていたが、中に入ると奥行と建物の高さの為か思っていたよりも広かったのだ。
図書館は体育館位の広さに本棚が所狭しと並んでいる。
何処に何が置いて在るのか調べるだけでそれ相応の時間が掛かりそうだった。
シュウ達は壁のステンドグラスから淡い光が差し込む館内を受付目指して歩いていく。
「すまんが、四人利用じゃ」
「はい。四名で銅貨二十枚ですね。後、野獣は館内に入れないで下さい。彼方に中庭へと繋がる扉が在りますので、其方から庭に放して下さい」
「はーい」
司書の男性の言葉に従い、ティルがシュペルを庭へと連れていく。
「後、内容を書き留めたいのじゃが、冊子は売ってないかの?」
「冊子なら銀貨一枚で売ってますよ。あっ、方陣士に転写を願う場合は別途費用が掛かるのでご了承を」
「了解じゃ」
「ならこれからいいですか?」
デュスの横に立っていたクムトが財布から銀貨を二枚差し出す。
「はい。入館料と冊子代金を引いて、お釣りの銅貨八十枚だよ。多いから落とさないようにね。坊や」
「ありがとうございます」
「何か薄いのお」
ピラピラと受け取った冊子で仰ぐデュスに、司書は笑いながら言う。
「手書きだとそれでもかなりの量が書けるよ。一応は厚い冊子も有るけどかなり高いよ」
「幾らじゃ?」
「銀貨十枚。よっと!」
そう言うと足元から辞典の様な厚みがある冊子……もう本と呼んでも差し支えないが……を台に置く。
「ぬう……」
それを見たデュスが戸惑いの声を上げる。
「どうする?」
「ならこれは返却でそっち買います」
新たに銀貨を九枚クムトが台に置く。
「……本気かい? まあ買ってくれるのは嬉しいけどね」
司書の男性は軽い驚き顔をしたまま素直に銀貨を受け取り、デュスから薄い方の冊子を返してもらう。
「まあいいわい。後、本の場所を聞きたいのじゃが」
「どんな本を探してるのかい?」
「うむ。野獣の図鑑と神話関係の本、それに魔方陣についての本じゃな」
デュスが端的に探している本を伝えると、司書は手元の紙に何やら印を付けていく。
どうやら手書きの図書館のマップらしい。
「ほい。これは冊子を買ってくれたサービスだよ。書く時は壁沿いにテーブルがあるから使いなよ」
「すまんの」
礼を言うデュスに司書は何でもないと手を振る。
「ありがとうございます。えっと、これによると結構離れてますね」
見事に三方向バラバラである。
「ならあのテーブルにめぼしい本を持って集合じゃな」
「ああそうそう。本は元の場所に戻しておいてくれよ。後で片付けるのが大変だからさ。後、本は破ったら金貨一枚貰うから気をつけなよ」
司書が付け加えるように声を掛けてくるのを、デュスが手を挙げながら答える。
「分かっておるよ」
「なら僕はこっちに行きます」
「私は……」
視線を送り、シュウが頷いた事を確認して、ティルは魔方陣の本がある方を指差す。
「……あっちね」
「ならばワシ等はこっちじゃの」
デュスに頷いて答えるシュウ。
「なら後であのテーブルで落ち合いましょう」
こうしてシュウ達は三方に別れて本を探し始めるのだった。
「うむ。ティルが居らんと野獣が分からんかったな」
シュウとデュスは早速野獣図鑑を見つけたのだが、肝心の合成元の野獣が分からない事に今更ながらに気付いた。
ティルじゃなければ詳しい事は分からないが、身に覚えのある合成元の野獣もいるのだ。
まずはそっちだけでも探してみようとシュウは思いたった。
「いや、幾つかは分かるから先に調べておこう」
「了解じゃ。で何の野獣かの?」
「
デュスはシュウの言葉に頷き図鑑のページを捲っていく。
「ふむ。
デュスが
角粘軟 コルノリモ
鋭い角を持つ軟体生物。
薄暗く湿気の多い場所に好んで生殖する。群れを為す事が多い為、注意が必要である。
主に角を用いた体当りに依る攻撃を行う。
行動不能に陥った獲物を体内で消化吸収する為、動きを止める行動はお勧めできない。
軟体生物の為、物理攻撃に耐性を持つ。
また一部を切断しても軟体部分は結合する為、生命活動を停めるには核を破壊しなければならない。
稀に形状を変える個体がいる為、接近距離にも注意が必要である。
能力
分離・結合・変体
「成る程な」
シュウは自身が行ってきたアビリティ発動を思い返してみる。
(切れた腕をくっ付けたり、千切ったり出来たのはこのアビリティか……変体は俺とサコィに別れた後で足が生えてたりしたのがそうだろうな。取り敢えずはこれで三つか……)
漸く自分の肉体に付いて理解が出来てきた。
この先、他の野獣のアビリティが分かっていけば、新たな能力に気付く可能性が高くなった事にシュウは期待感を高めていた。
「次が
影蝙蝠 ソンブシェラゴ
洞窟の様な暗がりに生息する蝙蝠型の野獣。
主に影から急襲する為、洞窟の出口付近では注意が必要である。
攻撃方法は噛みつきである為、至近距離に近づかれなければ攻撃は避ける事が容易である。
但し超音波により攻撃を察知する為、攻撃を当てる事は容易ではない。
視覚は退化しており、聴覚に因って獲物を識別している為、音の撹乱に弱い。
また火の耐性も低く火炎の攻撃が効果的である。
能力
音探査・超音波・潜影
シュウはデュスから情報を聞くと、ふと思い当たるものがあった事に気付く。
(そういえば、コイツは影に潜るんだったな。能力にもあるし、俺にも出来ると考えるのが妥当だな)
潜影のアビリティは要確認であろう。
超音波と音探査はシュウも予想が出来ていた為余り気にしていない。既に経験済みなのだ。
アビリティに確り記載があった事で、改めて確認できたのは有り難かったが。
だが不思議な事もある。影蝙蝠に飛行のアビリティが無かったのだ。
ならば、まだ明かされていない合成元の野獣にその能力が在る事は確実。
シュウは新たな能力に期待を更に高めるのだった。
「後は分からんのかの?」
「う~ん。これ以上ははっきりして無いな」
「なら、ティルを素直に待つが良いな」
流石のシュウも字が読めない以上、何が書いてあったのか覚えてもいない。
結局二人はティルの合流を待つ事にしたのだった。
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