第78話 パーティ結成
「では、登録を行わせて頂きます。登録は無料で出来ますのでご安心を。登録に際しまして識別札を発行致しますが、これは身分証を兼ねていますので必ず身に着けてください。尚、紛失の際は再発行に銀貨二枚が必要となります。紛失には呉々もご注意ください。」
笑顔を浮かべている受付嬢の言葉は相変わらず淀みがなく、決まりきった定型文を読み上げるかの様だった。
受付嬢はシュウ達が頷いたのを確認し登録作業を進める。
「冒険者にはランクがあり、銅札の初心者級、鉄札の一般級、銀札の熟練級、金札の特例級に区分されています。一般級を最初からご希望の場合は、建物裏にある鍛練場で腕試しを受けて頂く必要があります。ご希望されますか?」
「それは受ける事の出来る依頼がランクに応じて違ってくると言う事でしょうか?」
クムトが代表して確認するのを、受付嬢は笑顔で肯定する。
「はい。一般級からは戦闘行為が必須となりますので、初心者級との区別だけは付けさせて頂いております」
クムトは皆に視線を向け否定的な意見が無い事を見て取り、再度確認為に受付嬢に尋ねた。
「パーティを組んで依頼を受ける際に、パーティ内のランクが違う場合はどうなりますか?」
「はい。過半数が一般級であれば初心者級の方がいらっしゃっても依頼を受領する事は可能です」
「なら、僕達三人は一般級で、彼女だけは初心者級でお願いします。因みに野獣は登録する必要がありますか?」
「はい。パーティ登録の際に使役されている野獣にも識別札を着けて頂く必要があります。これは野獣が町中で騒ぎを起こした際に、使役者に責任が発生する事になりますのでお気を付け下さい。それと……」
それまで淀みなく答えていた受付嬢だったが、珍しくクムトの顔色を伺うように言葉を濁す。
「……其方の獣人の方は、どの様な立場の方なのでしょうか?」
「僕が主となります」
「貴方の奴隷で間違いないですか?」
「僕が主です」
あくまでも主であるとクムトは答える。
クムトは間違っても、シュウの事を奴隷等とは言いたくなかった。
実際にシュウはクムトに隷属している訳でもないので、嘘をクムトが吐いているといった事もない。
言葉の綾だが、そこはクムトにとっては譲れない一線だった。
クムトがシュウを大事にしていると感じた受付嬢は、即座に謝罪の言葉を述べる。
「失礼いたしました。其方の方と使役されている野獣に付きましては、別途識別札を発行させて頂く必要がありますのでご了承ください」
「分かりました」
「パーティ申請もなさると言う事で間違い御座いませんか?」
「はい」
「ではこちらの用紙にも記載をお願いします。スキルは書かないとの事でしたので、お名前の記入とパーティ名だけで結構です」
「デュス、お願いします」
「うむ」
クムトは代表としての立場を明確にする為に敢えてデュスに指示を出す。
これでこのパーティのリーダーが自分となる事も覚悟の上の発言である。
対外的な立場上このパーティで一番発言力を高くする必要がクムトにはあった。あくまでも対外的にはであるが。
既にこの事は皆の中では了承済みの案件である。
故にデュスもクムトの指示に素直に従っている。
受付嬢もこれで今後はクムトの意見を最優先にする事となるだろう。
「クムト様、デュス様、ティル様、シュウ…さんにシュペルで宜しいですか?」
「はい」
「クムト様、パーティ名は如何なさいますか?」
「そうですね……」
クムトは皆の顔を見回すと全会一致でクムトに一任する旨が伝わってくる。
クムトの表情が引き攣る。が、ここまで来て逃げられない事も悟った。
考える……その視線はシュペルに行き着いた。羽……翼。色んな種族の集団……多彩な色。
覚悟を決めてクムトが受付嬢にパーティ名を告げる。
「……なら、『無色の翼』でお願いします」
こうしてシュウ達は『無色の翼』と言うパーティとして登録されるのだった。
「うん。合格だよ」
デュスと向かい合っていた戦士風の男がそう言った。
デュスは木の斧を下げ、男に軽く会釈するとシュウ達の側まで戻ってきた。
「やったねーデュス!」
「うむ。まあこんなもんじゃろ」
「で、次は君だね。君は奴隷持ちだから、一緒に受けて貰って構わないよ」
男はクムトを見やり、その後でシュウに視線を向けそう言った。
「ならそうさせてもらいます。シュウ……行きますよ」
少し言葉に詰まり掛かるも、クムトはそう言うとシュウを連れだって男の前に立つ。
「構えて」
男の言葉に従い、クムトは短い木剣をシュウは木の槍を構える。
「じゃあ行くよ」
そう言うなり男はクムト目掛けて木剣を構えて近寄ろうとする。が、シュウが間に入り槍を横凪に振るう。
男は少し下がってその一撃を避けると、横凪の一撃が眼前を通りすぎると同時に、シュウに向かって一歩踏み込む。
シュウは振り抜いた勢いを殺さず、石突きの方で男に追い討ちをかける。
「くうっ、やる……ね」
流石に一撃は男の持つ木剣に受け止められ、そのまま角度を逸らせて槍の一撃を受け流そうとする。
だがシュウの一撃は思いの外重かった。
男の体勢がシュウの膂力に負け崩される。
「そこ!」
男の体勢が崩れた瞬間、クムトがシュウの脇から飛び出し男に木剣を突きつける。
「おっもいねー。合格だよ合格」
男は苦笑いを浮かべながらそう言い放った。
「ありがとうございました」
クムトは木剣を下ろすと頭を下げる。
シュウもクムトに倣い、木の槍を下ろすと頭を下げた。
「いやーその獣人さんはすごいね。これなら野獣討伐でも問題ないと思うよ」
男は頬を掻きながらそう言った。
「お疲れ様でした。ではクムト様とデュス様は一般級で登録させて貰います。では窓口迄ご足労願います」
受付嬢は男に視線を向けるでなく、クムトに笑顔で話しかけると、クムト等を伴って元来た通路へと踵を返した。
「頑張れよ!」
戦士風の男はそんな受付嬢の態度を気にした風もなくシュウ達に激励を送って見送るのだった。
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