第76話 スキルを確認しよう


「さてさて、どう出てくるかの?」


 デュスが楽しそうに魔導具を眺めている。

 やはりドワーフたるもの魔導具には関心があるようだ。


「デュスもこの魔導具は初めて見るの?」


 ティルの言葉にデュスが肯定する。


「うむ。所持スキルが分かる魔導具なぞ聞いた事も無かったわ。確かスキルブックの魔導具とか言うておったの」


「ええ、確かにそう言ってましたね。この魔導具の原理は分かりませんが、有ると便利そうな魔導具ですね」


 クムトが素直な感想を述べる。

 確かに今自分がどんなスキルを取得しているかが分かるだけで戦術の幅は広くなる。

 取れる手段が多くなるのは、戦場で生き残る可能性が高くなる事に他ならない。

 特にこの冒険者と言う職業は命の価値と言う意味ではプライスレスである。

 知る事が可能であれば常に把握しておきたい情報である。

 が、今はこの情報を他に漏らさない様にする事が先決だった。


「クムト、受付嬢の壁になれ。デュスは少しでもこの魔導具に付いて……特に記録が取られないかを探ってくれ」


「はい」


「了解じゃ」


 打てば響く様な対応である。

 即座にクムトは座る位置を調整し、受付嬢が魔導具を直接見れない様に視線をシャットアウトする。

 デュスは色々と様々な角度から魔導具を確認している。

 ティルはシュペルを使って、周りが此方に注意を払ってないか監視していた。


「うむ。恐らくはじゃが、記録する様な機能は付いとりゃせんの。じゃが背面にも表示されるようじゃから、彼処で見んかったのは正解じゃ」


 シュウの予想は当たっていたが、どうやら最悪の機能までは搭載されていないらしい。

 であれば、遠慮なくスキルを確認するだけだ。


「ねえねえ、大丈夫なら私からやっていい?」


 好奇心でウズウズした様子でティルが挙手する。


「良いんじゃないかの?」


「僕は構いません」


 シュウもコクリと頷き返す。


「じ、じゃあ……やるよ」


 恐る恐ると魔導具に手を伸ばし、受付嬢に聞いた様に下の台の反応盤と言われる部分に手を触れる。


「うあっ! 上の板に何か文字が浮かんできたよ!」


 シュウには文字は読めなかったが、ティルが言ったように文字盤には文字が浮き出ていた。

 そこにはこう記されていた。



〈スキル〉


想像転写〈Lv 1〉


空間方陣〈Lv 2〉



「あっ、二つもスキルがあるよ」


「ぬう? 二つじゃと?」


 デュスとティルの二人が驚いていたが、その内容は異なっていた。

 ティルは純粋にスキルが二つ有った事に驚き、デュスは二つしかスキルが無い事に驚いていた。


「ば、ばかな……基本スキルが無いじゃと……」


「どういう意味だ?」


 シュウの問いに戸惑いながらデュスが答える。


「スキルはヒューマ族のみが使える特技じゃ。じゃから本来なら基本属性を誰もが一つは持って生まれてくるもんなんじゃよ。火、水、風、土。その何れも無いなど、普通ではあり得ん!」


 デュスは優しくティルの手を退かすと、自分の手を反応盤に乗せる。



〈スキル〉


土生成〈Lv 2〉


ランドプレッシャー〈Lv 1〉


グランアクス〈Lv 1〉


ヘビースマッシュ〈Lv 2〉


衝撃波〈Lv 2〉


鉱物判定〈Lv 2〉



「うわっ! 一杯あるよ」


「デュスは土属性なんですね」


 ティルはその数に驚き、クムトが属性の意味を理解する。

 シュウは文字は読めないが何行文字列があるか位は分かる為、デュスの言っている意味を推し量る。

 デュスの言っている意味はおおよそ想像できる。

 恐らくこの世界の生物は、生まれた時から基本属性を最低でも一つは持っているのだろう。

 そうでなければ属性の魔導など覚えるのは簡単ではないだろう。

 そう考えれば、ティルにはその基本属性が無い事になる。


「うん? ヒューマ族のみ……だと?」


 ふとシュウは話に違和感を感じた。


「ん? なんじゃ?」


「デュス、お前はドワーフ族だろ。何でスキルが使えんだ?」


 根本的にスキルを使えるのはヒューマ族の特権なら、デュスがスキルを覚えているのは普通ではありえない事になる。

 そこまで考えて、ふとシュウはある一つの仮説に思い至る。

 ヒューマ族しか使えないなら、デュスにもヒューマ族の血が流れている可能性だ。


「ふむ、言ってなかったかの。ワシはドワーフ族とヒューマ族の混成種じゃ」


「……やっぱ…そうなるよな」


「ならつまりは……デュスはハーフなんですか?」


 クムトが驚きで眦を大きく見開く。


「クムト、今はダブルって言うんだよ」


 そんなクムトにティルが訳知り顔で訂正を入れる。


「デュスがハーフだろうとダブルだろうとそれはまぁいい。スキルが使えるだけラッキーだと思っとけばいいとして…だ、とどの詰まりは神のスキル持ちは属性スキルを持てないと言う事か?」


「ふむ。そうも考えられるが……決め手が無いわい。判断するには早すぎるじゃろうな……」


 シュウの言葉に一定の理解は示すも、確固たる証明にはならないとデュスは言う。


「なら、僕もやってみますね」



〈スキル〉


光結界〈Lv -〉


光障壁〈Lv -〉



「ぬう。やはり無いか……いや、光が属性やも知れんが……それよりもスキルにレベルが無いじゃと? そんな事があり得るのか……」


 デュスが唸るように考え込む様子が見て取れる。

 恐らくは予想外の結果が出ているのだろうとシュウは思った。

 先のデュスの言葉から判断して、スキルにはレベル……つまりは個別に経験値が存在し、それに因ってスキルレベルが上がるのだろう。

 もしくは別のスキルを覚えるのかもしれない。

 だがこれはあくまでゲームの知識から応用したものなので、実際にそうとは判断出来ないが、予想としては早々外れてはいないだろうとシュウは考える。

 ただ神のスキル持ちが属性を持っていないと判断するのは早計かもしれない。

 クムトが光の属性持ちの可能性が出て来たからだ。

 となると、ティルが偶々属性持ちではない……いや、転生者に限って持たない場合もあると考えた方が妥当かもしれない。


(まぁ結論を出すには情報不足だな)


 結局シュウは考えを棚上げする事にした。情報不足で決めつける程危険な物は無い。

 ある程度は情報が出揃うのを待って判断しても決して遅くはないだろう。


「えっと……どうしましょうか?」


「取り敢えずデュスはそのままほっとけ。兎に角、まぁ結論を出すにはまだ早すぎるな」


「うん、そうだよねー。私だって属性スキルをこれから覚える可能性もあるしさ」


「ですね」


 デュスはそのままに、日本人達は一応の納得を見せたのだった。

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