第75話 スキルブック


「待たせたのう」


「いえ。お話し合いはもうよろしいでしょうか?」


「うむ。一応契約事項を確認した上で、問題なければ登録させて貰うわい」


「では、これが契約書になります。ご確認ください」


 受付嬢は作られた笑顔を張り付けたままデュスに一枚の書類を渡す。

 皆の視線が書面に集まる。無論文字が読めないシュウは除く。


「此れだけかの?」


「はい。あまり細かく定めても問題が多くなるだけですから」


 ティルが小声でシュウに書かれている内容を伝えてくれる。

 ティルの話を要約すると、



  1.依頼はギルドを通して受注する事。


  2.受けた依頼が達成出来ない時は違約金が発生する事。


  3.他者が受けた依頼を横取りしない事。


  4.依頼の達成が無理な時は、素直にギルドに申し出る事。


  5.依頼を達成した際は達成票を受けとる事。


  6.達成票はギルドで換金出来る事。


  7.緊急時に限り強制的な依頼が発生する事。又その依頼は断る事は出来ない事。


  8.ギルド職員に対する不遜な態度や言動には罰金が発生する事。


  9.ギルド内での揉め事は衛兵を通して厳罰に処される事。


 10.上記以外の揉め事はギルドは関知せず、応対しない事。



 以上の十項目だった。

 ギルドとギルド職員を守る項目以外は、ある意味必要最低限の決まり事だけのようだ。

 特に最後の項目はギルドに迷惑を掛けない限りは関知しないと言いきっている。


(確かに冒険者って、自己責任の仕事だからなぁ)


 これなら難しく無い為、大概の者はルールに従うだろう。

 整列して順番待ちをしていたのが良い例だろう。

 クムトが視線で問いかけて来たのでシュウは頷いて肯定しておく。


「そうですね。デュス、良いんじゃないですか?」


「ふむ。クムトがそう言うならば良かろうて」


 受付嬢の視線がクムトに向けられる。

 どうやら決定権を持っているのがクムトと思ったらしい。


「では身分証を発行しますので、この契約書にサインと此方に記載願えますか?」


 クムトがざっと登録項目を確認して受付嬢に問いかける。


「あの、この項目ですがスキルも記載するのですか?」


「無理にとは申しません。種族的に使用できない方もいらっしゃいますし……ですが記載していると依頼の受注もし易くなります。魔導を使えない方に魔物討伐の依頼は行えないかと」


 遠回しに言っているが、ギルド側で依頼の受注判断を下すと言っているのだ。


「でも私、自分のスキル何て知らないわよ?」


 ティルの言葉に即座に反応して、受付嬢は机の引き出しから何か黒い物体を取り出すとテーブルの上に置いた。

 まるで開いたノートパソコンのような形をしている。

 恐らくはモニター部分に何か表示されるのだろう。

 

「こちらの魔導具を銀貨二枚でお貸ししております。こちらは触った者の持つスキルが解る『スキルブック』の魔導具となっています。ご利用なさいますか?」


「あっ、はい」


 受付嬢の笑顔に押されて、クムトは思わず返事をしてしまう。


「持ち出しは出来ませんので此処でご利用下さい」


 その受付嬢の言葉にピンと来たシュウは、即座にクムトを肘で軽くつつく。

 シュウが何を言いたいか直ぐに理解したクムトが受付嬢に問いかけた。


「えっと、その……お姉さんもここに居るのですか?」


 スキルを記録するのか、それとも何らかの方法で覗けるのかは分からないが、魔導具に仕掛けがされている可能性があると感じ取ったのだ。

 態々自分達の情報を安易に渡す必要はない。

 もし受付嬢がここに居座るのなら魔導具の使用は控えた方が良いかも知れない。

 表示されたスキルを魔導具が記録すれる様なら流石に確認のしようが無いが、覗くだけなら傍に人が居なければいくらでも回避が出来るだろう。


「……分かりました。では先程のテーブルで使用されてはどうでしょうか? テーブル迄は私がお持ちしますので」


 一瞬だが受付嬢の笑顔が陰ったのをシュウは確りと確認した。

 どうやら予想通り何らかの方法で此方の持つスキルの把握をするつもりだったらしい。


(やっぱな…どうせそんな事だろうと思ったわ。このギルド自体怪しく思えるじゃねーか。だがこんな便利な魔導具を使わないと言う選択肢は流石に取りづらいか……)


 何せシュウ自身が自分の持つスキルを把握出来て無いのだ。

 どんなスキルを所持していてもその事を知らなければ使いようが無い。

 クムトがこっそりとシュウに視線を向けどう答えるべきか問うてくるのだ分かった。


(やっぱ使うっきゃねーよな。魔導具自体に細工されてたら諦めるしかねーな、もう)


 最悪スキルを記録されたとしても誰が何を持っていたか迄は判別出来ないだろう。

 そう判断したシュウは頷いてOKを出したのだった。


「なら宜しくお願いします」


「ありがとうございます。ではそちらのテーブルへの運ばせて頂きますね」


 クムトの言葉に受付嬢は花の様な笑顔を浮かべるのだった。

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