第2話 創造神の幼女

「ぼくは“創造神”ユリア。とってもえら〜い神だから、メモっといていいよ〜」


 自称“創造神”ユリアは、どう見ても幼女だ。

 身長は170センチメートルそこそこの俺より頭ひとつ分は小さい。

 薄い桃色の髪の毛は、肩につくかつかないかくらいまで伸び、少し丸みのある顔はあどけなさが残っている。

 白く、所々グレーが散りばめられた長袖のワンピースは……あまりにも身丈にあっていない。

 袖はだらりと垂れ下がり、裾は地面を引きずっている。その見た目は、本人の口調のようにやる気を感じさせない。


 犬のウ○コとか落ちてたらどうするんだろうな、あの服。


「あれれ〜? キミはなにか失礼なことでも考えてないかい?」


 心が読めるのか!?

 いや、待て、まだ慌てる時間じゃない。ゲームは始まったばかりだ。

 これはいわばチュートリアルだ。


 だらしない幼女の創造神。この姿を見て、じゃないことを思い浮かぶ奴はいるのだろうか?

 そんな奴がいるなら、重度の幼女好きロリコンくらいであって欲しいと願いたい。

 つまり俺は、健全だ。って話のベクトルが違う!


 幼女ユリアの今の台詞は、予め決められていたんじゃないかと推測できる。心を読んだと錯覚させて、“創造神”という存在に現実味リアリティーを出すために。


「幼女神ユリア、ここはどこだ! ゲームの世界で間違いないのか?」


 俺はここが現実世界だと思っていない。

 なんらかの方法で体を睡眠状態にされ、これまた、なんらかの方法で仮想世界的なところに強制ログインさせられている、と考えている。

 だかその考えは即座に否定された。


「あ~、ここはキミが思っているような“げ~む”の世界じゃないよ。まあ“遊戯げ~む”には参加してもらうんだけどね」


 小学生のようなその容姿には、間が伸びたその口調には、到底似合わない不敵の笑みを浮かべる。

 背筋がぞくりとした。

 

「つ、つまり……どういうこと?」

「ん〜、キミはこの世界に来て神に生まれ変わったんだよ。で、他の神たちと戦ってもらう? そんな感じかな〜」


 なるほど、わからん。

 神と付くからにはたくさんいるのか? 量産型なのか?

 そのうち求人票の募集欄に、『求める人材 “神”』とか、『必要な資格 “神”』とか書かれる時代がくるのか?

 そもそも神ってなんだ?


 そんな哲学的なことを考えている時だった。


「それじゃ〜挨拶はすんだし、ぼくは帰るね〜。次はいつ会えるかわからないけど、まったね〜」

「えっ?! ちょ、ちょっと待て!」


 袖をぷらぷらさせながら、回れ右する幼女ユリアの服の裾を、慌てて掴んだ。飛びつくように……。


「に、にゃあっ!?」


 幼女ユリアは猫の鳴き声のような声を上げて転んだ。

 周りに人がいたら、俺は幼女好きロリコンの道へ足を踏み入れたように見えるだろう。


「だ、大丈夫か?」

「あはははは、転んじゃった〜」


 何事もなかったかのように、笑いながら立ち上がる。


「キミ、1階層の神でしょ〜? 天上界に住むぼくにケンカを売ってるのかな〜?」


 やる気のない口調とは裏腹に、声のトーンはさっきより低くなった。

 多分、相当怒っている。目が笑っていない。


 たしかに今のは俺にも非がある。だが俺にだ!

 元を辿ると全部幼女こいつのせいだ!

 知らない場所に連れてこられて、神になりました? 他の神と戦ってもらいます? それでさようなら? 挙げ句の果てには喧嘩腰だと?


 ふざけるんじゃねぇ! 何から何までだ!

 あー、だんだんムカついてきた。


「元はと言えば悪いのは幼女おまえだろ! ここはなんなんだ! 俺はどうしてここにいるんだ!」

「だから〜、さっきも言ったけどキミはこの世界の神になったの。それで他の世界の神たちと戦うんだよ〜」

「それの意味がわからねぇよ! あれか? 俺のヨレヨレのスウェットと幼女おまえのだらけきった布切れで、どっちがやる気がないか戦えばいいのか?」


 返事が……返ってこない?


「なぁ、お――」

「――なるほど。それもなかなか面白そうな遊戯げ〜むだね」


 真面目な表情を浮かべ、感心そうに頷いている。

 はい? ホントに戦うの? 布切れあれと?


「な〜んて、冗談だよ〜」


 ケロっとした表情を浮かべ声のトーンを戻すと、両手を左右に振って、だれた袖を振り子のように動かした。

 色々と見透かされているのかな。完全に毒気を抜かれた気分だ。

 幼女こいつは本当に心を読めるのかもしれないな……。


「キミの知りたいことって、全てヘルプに載ってるよ〜」

「ヘルプってなんだよ!?」

「そんなのめにゅ〜画面のした……あ〜……キミにめにゅ〜を教えるのを忘れていたようだね。てへっ」


 幼女ユリアは舌をぺろっと出すと、自分の頭を軽く叩いた。

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