第3話 メニューは何かに似ていました

「メニュー」


 俺が“そう”口にすると、目の前に浮かぶように画面が現れた。

 タブレットみたいな、いや、もはやタブレットだろ! と突っ込みたくなるほどよく似た画面は、ゲームのような様々な機能が付いていた。


 【ステータス】【スキル】【マップ】【道具】【順位】【お知らせ】【友達】【メモ】しまいには、安心安全の【ヘルプ】機能まで付いている。


「ははは……」


 乾いた笑いが止まらない。

 タブレットで位置情報ゲームアプリをやってたら、知らない草原に迷い込み、幼女と遭遇しました。

 今の心境はまさにこれ。


「ねぇ〜ぼくはもう帰ってい〜い?」


 遭遇した幼女は、草の上にうつ伏せに寝っ転がり、駄々をこねる子供のように足をばたつかせている。


「いや、もうちょっとだけ! 聞いた方が早いし!」

「ずいぶん素直だね〜。キミだけに贔屓はできないから、答えられるのは限られるよ?」

「全く問題ない!」


 こう見えてこの幼女、俺よりプレイ歴長いんです。それに俺はいかなるゲームをやる時も、説明書は読まない派だ。詳しいやつがいるなら聞くに限る。

 たとえそれが幼女だったとしても!


 とはいえ、どの程度まで答えてくれるのか……。

 相手は創造神。ゲーム設定でいったら情報量は廃人クラスですら霞んでしまう。

 作った本人のようなものなんだから――。


「このダールデンってのは俺の名前なのか?」

「うん、そうだよ〜」

「どうしてこの名前なんだ?」

「ん〜、勝手に決まったから。かな〜?」


 俺の名前ランダム設定かよ! せめて自分でつけさせてくれ。


「ちなみに神って何人いんの?」

「キミが91番目だから〜、91人だよ」


 そういえば最初に言われた気がする。91番目のなんちゃらって。

 やっぱり神様って量産型じゃん。


「神は100年に1人ずつ増えていくからね〜」


 こ、心を読まれた……。

 俺質問する意味ないじゃん。もう考えるだけで色々答えてくれないかな。


 ん……100年に、1人……? 創造神って多分最初の神だよな?

 えーっと、91人だから――。


「――この見た目で9000年も生きてんの!?」

「あはははは。ホントに失礼なやつだな〜。神は死なないからね」


 細長い草の葉を、縦長く切り裂いた“何か”を大量に作り出している幼女ユリアからは、9000年の威厳は全く感じられない。

 死なないってことは、おそらく見た目はこのまま変わらないのだろう。

 もうちょい色気があったらなぁ……。


 じゃあ……俺は……? 今はどんな顔しているんだ?

 元々の30歳引きこもりニートの姿なのか、それとも、超絶イケメンとかに生まれ変わっているのか。

 くそぅ……確認のしようがない……。

 まぁ、服がそのままだし、顔もそのまま飛ばされてきたんだろうな。期待はしない。


「で、他の神たちとは何で戦うの?」

「もちろん、せんそ〜だよ」


 なかなか物騒な言葉が飛び出してきたな。“戦争”というからには個人対個人ではないんだろう。

 仲間を集めて“軍”を作るとかか?

 メニューにスキルがあるから、魔法のようなものもあるんだろう。


「この世界はさ、キミの世界なんだよ。他の神たちも自分の世界を持っている」


 幼女ユリアの間延びしない口調を聞くのは初めてだ。きっと今から話すことは大切なことなんだ。俺の30年の経験がそう告げている。

 俺は唾を飲み込んだ。


〜にってあるでしょ? それ、押してみて〜」

「おい! 俺の緊張を返せ!」

「え〜、なんのこと〜?」


 幼女こいつ絶対わざとだ! 知ってて口調を戻しやがった!

 ケラケラと笑う幼女ユリアを横目に、渋々ステータスを押した。メニュー画面から表示が切り替わる。



【種 族】   神    【保 有 兵 士 数】

【クラス】  指揮官   〈歩 兵〉  0 

【世 界】 ダールデン  〈突撃兵〉  0

【階 層】   1    〈魔法兵〉  0

【スキル】  なし    〈弓 兵〉  0


〈 人  〉 男 1281 女 1200

〈 エルフ 〉男  728 女  658

〈 獣 人 〉男  258 女  320

〈 竜 人 〉男    0 女    0

〈 合 計 〉男 2267 女 2178


【テ イ ム】 なし



「ははは……」


 俺はまた、乾いた笑いが漏れだした。

 なんかイメージと違うな。ステータスってもっとこう……魔力とか、HPとか、そんなやつを想像してたんだが。

 この世界は数値では表示されないのかな。


「キミのは神専用のだからね」

「一般用とは何が違うの?」

「神の力はね~、国の力なんだよ。一般用は個人の力? って言えばいいのかな~」


 なるほど。国力を上げて戦争に挑むって感じなのか。

 保有兵士数、テイムがあるってことは、兵士を育てて、モンスター的ななにかも捕まえていく感じなのか。


「なぁ、階層ってなに?」

「ん〜とね、90人の神の世界が、塔のように積み重なってるんだよ。順位が高い世界がかいそ〜も高いよ」


 つまり、1階層の俺の世界は最弱! あれ? 今、90人って言った?


「91人じゃないの?」

「ぼくの世界は遊戯げ〜むに参加してないからね〜。ま〜、傍観者ってやつかな」

「だから幼女お前はそんなに暇そうなんだな」

「否定はしないよ〜」


 幼女ユリアは、草の葉を切り裂いた大量の“何か”を丸めて、ボールのような物を作っていた。


 この数は……なんかどんどん増えていってる。1290。1293。あ、1300超えた。

 なにこれ怖い。

 

「な、なんか数が増えていってるんだけど」

「かず? あ〜、キミの世界の人口の数だね。合計は今いくらくらい〜?」

「えーっと、男が2400ちょっとで、女が2250くらい」

「もうそんなに誕生したんだ〜。あまり時間はないよ〜だね」


 誕生した? 生き物ってそんな簡単に生まれるの……? 

 神の力ってやつなのか。


「世界はね、最小人口数が決まっているんだよ。それが1万人。下回れば、自然と呼ばれるようにどこからともなく生まれてくる」


 まただ。間延びのしない口調。しかし! 次は騙されないぞ!


「91番目の神ダールデン、“神々の聖域”へようこそ。そして遊戯ゲームへの参加、ありがとう。この世界はキミの国だ。他の世界より強い国を作って、この僕、“創造神”ユリアへの挑戦権を勝ち取ってほしい」


 予想外の言葉に、俺は幼女ユリアを呆然と見ているしか出来なかった。“これ”が本来の“創造神”としての格というものなのだろう。

 幼女ユリアから何かオーラのようなものが見えた。気がする……。

 

「それじゃあ、キミの武運を祈っている」


 幼女ユリアはそう言うと、体を少しずつ光の粒子へと姿を変えていった。

 俺は「いろいろありがとう」と短く返した。

 聞きたいことはまだまだたくさんある。何をどうしたらいいのかさえ分からない。

 引き止めたい気持ちはあった。だが、ここで引き止めるのは野暮ってもんだ。そう感じた。


 すると、光の粒子へと姿を変えていたはずの幼女ユリアは本来の姿に戻る。


「あ〜、伝え忘れがあったみたい。ってスキルは絶対とってね〜。神の義務みたいなものだから。それじゃ〜、まったね〜」


 そう言うと、次は忽然と姿を消した。

 え……演出だったのか、光の粒子あれ


 やるせない気持ちになった俺は、草で作られた丸い塊を、幼女ユリアに見立てて蹴り飛ばした。


「さて、今からどうしよう……」

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