探偵小説の理論と実践の、ほぼ完璧な手引き書

 今回からカーター・ディクスンの「妖魔の森の家」を取り上げます。江戸川乱歩編のこの五冊のシリーズは二つのバージョンが存在します。この企画でも旧版と新版という呼びわけをしています。

 この「妖魔の森の家」は旧版『世界短編傑作集』には収録されていません。新版『世界推理短編傑作集』に入っているのは、乱歩の意向を汲んでとのこと。

 旧バージョンでも新バージョンでも、作品の前に乱歩による簡単なコメントというか解説がついています。五巻で言えば、こんな感じ。

 アリンガム「ボーダーライン事件」では「最少の長さで最大の効果をあげた本格作品」(p.10)、チャーテリス「いかさま賭博」では「カードゲームのいかさまを扱った軽妙な一編」(p.54)、ブラウン「危険な連中」では「話術の妙だけで綴った短編と評しても、いいすぎではないだろう」(p.190)。

 では「妖魔の森の家」はどうか。


 ヘンリ・メリヴェール卿(H・M)を主人公にした最初の短編は、エラリー・クイーンをして「探偵小説の理論と実践の、ほぼ完璧な手引き書」と言わしめた。(p.302)


 本来はクイーンの文献を調べて、クイーンの言葉としてご紹介すべきものでしょうが、乱歩が「あのクイーンもこう評価している」という事実は重いと判断し、乱歩の言葉として紹介しました。

 では実際どうなのか。「ほぼ完璧な手引き書」となっているのか。

なっています。ミステリを書くために大切なテクニックが詰まっており、二回読んでもらいたい作品です。

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