題名を巡る挿話

 この「証拠のかわりに」という作品のタイトルには、ちょっと興味深いエピソードがあります。『世界推理短編傑作集』シリーズ(いわゆる新版)の巻末には、戸川安宣さんによる「短編推理小説の流れ」という解説がついています。「証拠のかわりに」のところではタイトルにまつわる話が紹介されています。それによると、初出の〈アメリカン・マガジン〉では“Murder on Tuesday”として発表されたものの、のちに“Instead of Evidence”となったようです。さらにややこしいのは雑誌の次号予告のときには“Too Stubborn To Live”だったというのです。

 レックス・スタウトもタイトルを決めるのには悩んだのだろうなと想像できるお話です。

 作者スタウトのことを調べていると、学校銀行(金融)制度なるものを考案したという風変わりなエピソードがでてきました。とにかく才能にあふれたというか、いろいろやった才人のようです。

 長くなりましたが「証拠のかわりに」は今回で最終回。次回からカーター・ディクスンの「妖魔の森の家」を取り上げます。

 え、「悪夢」じゃないのか、そういえば「見知らぬ部屋の犯罪」はどうしたんだ、と首を傾げたかたは旧版をお持ちなのだと思います。新版には「妖魔の森の家」が入っているのです。

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