アンフェア

 前回、「証拠のかわりに」には本格ミステリマニアからすれば見逃すわけにはいかない“ツッコミどころ”があるといったことを書きました。今回はその辺りについて言及します。

 全面的にネタばらしにはならないようにしますが、勘のよいかたは仕掛けの一部にピンとくるかもしれません。未読のかた、事前に情報なく楽しみたいかたは、ご注意ください。


 では、センシティブな部分に入ります。



 本格ミステリにおいて「作者は地の文で嘘を書いてはならない」という掟のようなものがあります。「証拠のかわりに」で私が引っかかったのは、ここ。

 いや、語り手のアーチー・グッドウィンの認識が事実とズレているだけで「読者を騙すために嘘はついていない」と反論もきそうです。

 なんとなくマニアを自認している身として、自らの勉強不足を感じたのですが、語り手自身の誤認が一般的に「地の文で嘘をついてはならない」にあたるのかどうか、自信をもって「こうだ」と答えられません。

 白状すると、少し前まではアンフェアとする立場だったのですが、よく考えてみると語り手の誤認をなくすとミステリなんて成立しない気がしてきたのです。

 少なくとも筆者が本格ミステリを書く際には、「証拠のかわりに」の該当箇所のような書き方は避けます。多少、不自然でも違う書き方をするでしょう。

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