あなたは座っていなさい
ネロ・ウルフシリーズは安楽椅子探偵ものなのか。一応、イエスと答えられそうではあるのですが……ちょっとためらうところがあります。
作者のレックス・スタウトが安楽椅子探偵ものを目指して書いたのか、そうでないかが判然としないからです。別に形式を狙って書かなくても結果として安楽椅子探偵ものになっているのならば、安楽椅子探偵ものでよいではないかと思うのですが、少しひっかかります。
というのも、助手のアーチー・グッドウィンの動きがハードボイルドの探偵の動きに重なるからです。
とりあえず、自分の頭で考えるには考えたからよいか、と答えを探しに行きます。紐解くのは『日本推理作家協会賞受賞作全集20 推理小説展望』(中島河太郎著/双葉文庫)と『海外ミステリー事典』(権田萬冶監修/新潮選書)の二冊。
まずは『推理小説展望』から。【スタウト(レックス) Rex Stout】の項目から引用します。
アメリカ作家。奇矯な安楽椅子探偵の生みの親で、本格とハードボイルド流の折衷を試みた本国の代表作家。
『日本推理作家協会賞受賞作全集20 推理小説展望』(中島河太郎著/双葉文庫) P.268より
なんだか、いきなり結論が出た感じです。次は『海外ミステリー事典』をあたります。【スタウト、レックス】の項目には「安楽椅子探偵」の文字はないのですが【ウルフ、ネロ】の項目には、こうあります。
依頼人が来ても立ち上がらないという文字どおりの安楽椅子探偵。
『海外ミステリー事典』(権田萬冶監修/新潮選書)P.49より
ネロ・ウルフは安楽椅子探偵である、という結論が出ましたので、 安心して「じゃあ作者のレックス・スタウトは安楽椅子探偵ものを狙ったのか」について考えていくことにします。
変な探偵を造詣した結果として、椅子に座ったまま推理せざるをえなくなったのではないか、というのが筆者の頭にぼんやりと浮かんでいる考えです。
もう少し、突っ込むと「助手に見せ場を与えるために真相を暴く推理シーン以外には探偵を引っ込ませたのではないか」と感じているのです。
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