罠
まずは注意喚起から。
今回も「危険な連中」(「危ないやつら」)の中盤以降の内容に触れます。真相にこそ触れませんが、事前情報なく楽しみたいかたは、この先を読まないことをおすすめいたします。
前回、推理せずにはいられない人間には陥りがちな罠がある、と書きました。
ミステリの世界でこの罠にはまって苦しんだ代表的な人物はエラリー・クイーンでしょう。ここでいうクイーンは【二人】です。
作者のエラリー・クイーンと作者と同名のお抱え名探偵エラリー・クイーンの二人。
希代のミステリ作者、エラリー・クイーンのいわゆる「中の人」はフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの二人。この点が事態をややこしくしていますが、作者と探偵の二人が罠にはまりました。
雑に、失礼、端的にいえば、いわゆる後期クイーン問題が罠のアウトラインということになるのでしょうか。後期クイーン問題については、たくさんの評論でさまざまな議論が展開されているので、ご興味のあるかたは文献にあたってみてください。
後期クイーン問題というデリケートなワードを出した後でアレですが、今回、触れておきたいのは「手がかりに基づいた探偵(役)の推理が結果として誤っていた場合、どういうことが起きるか」について。
作家クイーンは作者という神の立場から名探偵に「誤った推理をさせる」ことで、探偵クイーンは「誤った推理をさせられる」ことで、ミステリの大地に大きな穴をあけました。
この穴、奈落のようなもので、ミステリの世界そのものを破壊しかねないほどのインパクトをもたらしたのです。
漏れがあることを承知で勇気を振り絞って書けば、偽の証拠によって誘導された推理とか、最終的な真相をどうやって担保するか、真実をどのレベルで保証するか、などが地獄の口めいた穴をふちどっています。
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