ベルフォンテーン氏は喘息もち

 このベルフォンテーン氏、喘息もちなのです。

 病院から脱走した犯罪者が近くにいるかもしれないと知ったベルフォンテーン氏は、駅への道を急ぎます。喘息もちにはつらいですね。

 かわいそうなことに、駅についても、まだ呼吸が乱れています。

 訪問先の取引相手からなかば強引に託された《ささやかなあるミッション》を遂行中のベルフォンテーンが駅で出会うのが、ジョーンズと名乗る長身の男性。

 ジョーンズ、ありきたりな名前ですね。日本で言えば、田中、山田、吉田、佐藤、斉藤あたりでしょうか。いや、私は斉藤ではなく斎藤だ、いや齋藤だ、というかたもいらっしゃるでしょうが。

 このよくいる名前のジョーンズ氏は、ベルフォンテーンも知っている有名な会社の帳簿係だというのです。

 まだ物語が大きく動き出す前、序盤も序盤なのですが、このあたりでミステリに必要な情報がだいぶ出揃っているのは驚きです。これみよがしにデータとしてではなく、描写や人物設定をさらりとすることが、ミステリを支える情報の提示にもなっている。実に巧いです。

 喘息もちというのが、後半に効いてくるのです。

 短編はこうでないと(もちろん、長編もですが)いけない、とうならされる作品。

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