医師の罠
今回でベン・ヘクト“Miracle of the Fifteen Murders”はラストです。
いつものように注意喚起の文は入れますが、後半で内容に言及しますので、ご注意ください。
まずは真相に触れない話題から。とはいえ、物語の後半の展開に触れますので、事前に情報なく楽しみたいかたは、ここで読むのをやめてください。
医師たちの秘密会議「Xクラブ」では、参加者が過去にしでかした過失や誤診を告白します。
今回の告白者は、会合に初参加の若い医師サム・ウォーナー。
ウォーナーは十七歳の少年の患者に潰瘍性結腸炎の診察をくだしたが、死なせてしまったから誤診だったと語ります。
他の医師たちは若い医師がなにかたくらみを持っていると感づきながらも、ウォーナーの挑発にのり、真の死因を特定すべく、議論を始めます。
!!!!!!!注意!!!!!!!
この先、ベン・ヘクト“Miracle of the Fifteen Murders”の内容に言及します。未読のかたはご注意ください。
(ネタばらし、ここから)
議論の結果、医師たちは「飲み込んだ魚の骨を取り除けば、患者を助けることができたのだ」と結論付けます。なにしろ、集まっている医者たちは優秀な「権威」レベルの人ばかり。しかも、誤診の経験も豊富。若い医師の患者を正しく診断するのはわけもありません。
ここまでの推理の積み重ねもミステリ的なのですが、この作品最大のミステリ的サプライズはこの先にあります。
百戦錬磨の医師たちが見抜いたように、初参加の若い医師ウォーナーにはたくらみがありました。
十七歳の患者は死んでおらず、まだ生きているのです。
ウォーナーは「誤診で死なせた」と噓をつくことで、Xクラブに集まる名医たちの知恵を借り、正しい判断をくだすのです。ちょっとクセのある作者だからという心配はありましたが、手術は成功し、患者は助かります。推理どおり、魚の骨が出てくるのです。
鮮やかな「ひっくり返し」に感動をおぼえたほどです。
アンソロジー、それもさまざまなタイプの集まった五巻ものシリーズのなかにおいてあるからこその衝撃でしょう。もしも「どんでん返しミステリ傑作選」みたいなものに収められていたら、これほど心が揺さぶられなかったと思います。
ミステリを勧めるときに「どんでん返し」という言葉は注意して使わなければならないと思います。
ただのいい話にならないのは、一人の患者を救った後で、時代は戦争に突入し、医師たちも戦場に向かうのです。一応、兵士としてではなく、医師として戦地に赴いたように描かれてはいますが、それだけに医師たちの虚しさは大きいでしょう。
!!!!!!!(ネタばらし、ここまで)!!!!!!!!
最後にもう一つ、作者の工夫について。
十七歳の患者の肌の色が医師たちとは違うという設定になっているのも、人種的な対立が戦争にも繋がっていった歴史をふまえると、重要だと感じるのです。
次回からフレドリック・ブラウン「危険な連中」を取り上げます。
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