完全犯罪を成し遂げるには

 犯罪を成功させる要素はなにか。

 これはなかなか難しい問題です。問題を二つにわけましょう。まず現実レベル。そして、フィクションのレベル。つまりは推理小説、ミステリの世界でのお話です。

 現実世界で完全犯罪をするには、犯罪そのものの露見を防ぐことが肝要でしょう。犯罪の話で肝要、などと書くと眉をひそめられそうですが。

 世界の平均というかスタンダードがどうなのかは定かではありませんが、こと日本においては警察というのは非常に優秀な捜査能力を発揮する組織だ、とするのが一般的な認識でしょう。

 具体的には検挙率がどうのこうのという話になり、公式なデータにあたれば正確な数値は出てくるのでしょう。ですが、この企画の趣旨は「日本の警察すごい」というところにあるわけではなく、ミステリを考えることにあるので、統計的にどうのこうのというあたりの話には触れません。

 少し言葉を変えますと、日本において表に出てきた犯罪に関しては、きちんと捜査がなされ、ひとまずは犯罪者は裁きの場に出されているということになるでしょう。あの政治家はどうなんだとかいう話は大事なのですが、さきほども書きましたように、ここは推理小説を語る場なので、あの人とかあの人のことはここでは論じません。

 いつか令和の松本清張みたいな作家が出てきて、フィクションの形で糾弾してくれたらいいなとか、それ以前にきっちり法律が機能してくれたらいいな、とは思うのですが。

 話がそれました。

 ミステリの世界で完全犯罪が成功するためにも、犯罪の露見そのものを防げばよい。確かにそうなのですが、厄介なのは小説には作者と、そして読者という存在がいることです。

 犯罪を語る作者とそれを読む読者には、(それとなくでも)犯罪が提示されなくてはミステリが成り立たない。そこが難しいところ。

 小説の世界の多くの人々の間では犯罪そのものは露見していないが、一部の関係者には犯罪が認知されているという形をとらずには犯罪を扱った小説は書きにくい(書けない、としたいところですが、ここは断定的な表現を避けておきます)。

 ミステリで完全犯罪を扱う際、多く見られるのは犯人による告白という体裁をとったものです。独白(読者以外には読まれない手記のようなものも含む)という形をとれば、犯罪そのものが世間には露見しないという形を維持することは可能です。

 少しひねると、犯人の死や時効の成立によって、法律的には犯人の罪を問うことができない、という形もあります。

 本作では事件当時は少年だった語り手が後年、大人になってから振り返ると事件の真相が見えてきた、という形で犯罪の成功が語られます。

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