操り欲
前回、書いたようにミステリ用語としての「操り」は辞書的な「操る」よりも狭い意味なので、丁寧に話を進めていく必要がありそうです。
辞書的な「操る」には、他人をコントロールするという色合いも帯びているとしていいでしょう。
乱歩は「変身願望」や「一人二役」が大好きでした。見方を変えると、自己の中に「(ニセモノの)他人」をつくることによって、他人を支配し、コントロールする充足感を満たしたとも言えるかもしれません。
そう考えると、広義の「操り」は乱歩も好みだったのではないでしょうか。
少年探偵団シリーズは基本的には子ども向けの娯楽作品です。シンプルなツイスト、街を騒がす謎の怪人と明智探偵が互いの手の内を読み、相手の手を越える手を打つというのは終盤のお馴染みの展開。書いていて苦しいなぁと思うのですが、なかには「操り」に近いものも出てきます。
「ハハハハハ明智君、聡明な君のことだから、この俺様の正体がわかればきつと助手の小林の小僧を助けにアジトにやつてくると思っていたよ。洞窟で拾った紙の暗号メツセージだがね。あれは落としたのじゃあない、君が拾うようにわざと落としておいたのさ。暗号が簡単だつたのも当然さ。警察の馬鹿どもはともかく君には解ける程度に俺が調整しておいたのだからね」
嗚呼、読者諸君。なんということでせう。すべて藤岡博士が仕組んだことだとは。さしもの明智探偵もここまでということなのでせうか。
「とんでもない悪党だな、藤岡博士。いや、さすがだな××××」
希代の大悪党藤岡博士の高笑いがピタリと止みました。いや、そんなことはたいしたことではありません。たつた今明智探偵はなんと言つたのでせうか。
「ふふふふふ、さすがは明智だ。ちやあんと俺の正体を見抜いていたとは」
「見抜いていたのはお前の正体だけぢやあない。手紙が罠だということもわかつていたさ。お前が演説をすることも。その隙に僕は隠し持つた懐中ライトで合図を送つていたのさ」
いかにも引用みたいな形で書きましたが、私の創作です。
わかりやすいように書いたつもりですが、犯罪者が探偵を操って罠にはめる、探偵はさらに上をいき、罠だとわかっていてアジトに乗り込む、みたいな展開はお馴染みです。
これは単純にエンターテイメントを盛り上げる手法の一つで、乱歩が「操り」が好みだったという根拠にはなりません。
少年探偵団シリーズに登場する怪人(たち)は、子どもたちを操って探偵ごっこを楽しんでいる。明智探偵は怪人(たち)を操って子どもたちに探偵ごっこをさせている。そんな結論だと愉快なのですが、もう少し真面目に乱歩と「操り」について考えてみましょう。
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