ヒッチコック好みとはなにか
この短い小説は推理小説の条件を充分備えている。犯人も被害者も完全犯罪も。そしてまた、ヒッチコック好みの痛烈なオチも。
『世界推理短編傑作集 5』(江戸川乱歩編 創元推理文庫)P.92より
前々回と重なりますが、読みやすさを考慮して今回も引用しました。
この「ヒッチコック好み」というものについて考えていきたいと思います。
大きく二つにわけて考察していくことにしましょう。
一、 一般的なヒッチコック好みとはなにか?
二、 乱歩の思うヒッチコック好みとはなにか?
前者についてはヒッチコックの作品にガシガシとあたっていき、くり返されるモチーフやテーマをピックアップしておけばよさそうです。たぶんですが、ぼんやりとみなさんの頭にはヒッチコックの好みの輪郭みたいなものがあるように思います。
白状しますと、私、ヒッチコック体験は薄いです。映画で見たのは「北北西に進路を取れ」くらいでしょうか。「レベッカ」のDVDは持っているはず。原作のほうならばパトリシア・ハイスミスの『見知らぬ乗客』は読んでいます。「裏窓」の原作となったウールリッチの作品はジュブナイル版で読んでいるはず。「サイコ」の肝も知っています。
ヒッチコック劇場も何作か見ているはず。ミステリ好きを名乗るのもはばかられるほどですが、ヒッチコックに最も深くかかわっているのはヒッチコック劇場の原作の短編群。具体的にはヘンリー・スレッサー、ロアルド・ダールなど。
そして、この作品群こそが私の想定する「ヒッチコック好み」というものと大きく重なります。一般人の日常に犯罪という非日常が侵入してきて主人公と共に鑑賞者(読者や観客・視聴者)にサスペンスを共有させる。やや強引にまとめましたが、これがヒッチコックの好み。
これは大外しはしていないでしょう、おそらく。
このボヤッというのは大事です。関心のない人にも生活していると自然に入ってくる情報というのでしょうか。
たとえば、マンガ「鬼滅の刃」という作品を私は読んだことがないですが、「緑と黒の市松模様の着物の男の子と竹をくわえた妹」とか「○○の呼吸」といった断片は耳に入ってきます。
現代のライトノベルを読んだことがなくても、異世界や転生、チーレムみたいなキーワードは目にします。
全作品を二回以上観て、映画評論もチェックしているといったヒッチコックマニアが精緻に描いたヒッチコック像よりも、ラフなタッチのヒッチコックの似顔絵のほうが芯をとらえているとでもいうのでしょうか。
エッセンスの抽出力というのはマニアのほうが苦手、とまでは言いませんが、マニアも普通のファンもそれほど違わない気がするのです。
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