初めは決まって勝たせるもの

 今回で「いかさま賭博」は最後です。

 作中にこんなやり取りが出てきます。引用しましょう。


「初めはぼくが勝ったんだぜ」

「あたりまえだわ! 初めは決まって勝たせるものよ。それでだんだん深みに引き込んで、しまいには、根こそぎまきあげるのが、あの連中の手なんだわ」


『世界推理短編傑作集 5』(江戸川乱歩編 創元推理文庫) P.64より


 セイントことサイモン・テンプラーがいかさま賭博師たちとの勝負に担ぎ出されるきっかけとなるカップルの会話です。初めは勝たせる。まぁ、常套手段ですね。多くの賭博詐欺ものの作品はこんな感じです。それは現実の詐欺もそうだからでしょう。

 インチキで掠め取ろうという連中は、最初から仕込んできます。

 カモにされるふり、騙されるふりをして、詐欺師を手玉に取ろうとするセイントもある意味で詐欺師。こちらも騙しの王道どおりに早い段階から仕込んでいます。

 作品最大の読みどころは、セイントがいかに詐欺師をやりこめるか。もちろん、ゲームのクライマックスで賭け金があがっていく緊迫感あるシーンも実にいいです。

 カタルシスと鮮やかな逆転の構図。ただのギャンブルを扱った作品ではなく、すぐれたミステリでアンソロジーに選ばれているのも納得です。セイントという名探偵の用い方にもひねりがあってしゃれています。

 次回からジョン・コリアーの“Back for Christmas”を取り上げます。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る