賭けなんかするもんじゃないよ

 ここで「いかさま賭博」のあらすじを紹介しましょう。

 聖者セイントこと、サイモン・テンプラーは旅の途中でネイスキルという男と出会います。ネイスキルは元奇術師。今は手品の種やテクニックを教えています。セイントはネイスキルから特殊なカードを見せられ、これがイカサマに使えることを危惧します。

 ネイスキルと別れた後、セイントはあるカップルと出会います。どうやら、彼氏のほうはイカサマでお金を巻き上げられたよう。さて、義賊セイントはどうでるか?

 こんな感じでしょうか。

 ご推察の通り、聖者は義賊ですから(よく考えるとすごいな、この字面)カップルを救うために一肌脱ぐことに……

 ギャンブルものの場合、「どうやってイカサマをしているか?」のトリックの部分と、「どうやってイカサマ師をギャフンと言わせるか?」の二つが鍵です。前者だけで充分だろ、というかたもいらっしゃるでしょうが、筆者個人は後者のほうも重要と感じています。

 イカサマの手口を紹介するだけでは「へぇ、そんな手があるのか。悪いやつは妙なことを思いつくもんだな」になってしまいがちです。悪ければ「へぇ」で済まされてしまうかもしれません。

 騙しの手口が実際に詐欺師たちの間で使われているものなのか、作者のオリジナルかどうか判別がしにくいというのも「どうやってイカサマをしているか?」にはついてまわります。既存の手法をうまくミステリとして活用するのも作者の腕なのですが、ここを評価してもらえるように書くのはとても難しい。ちょっと踏み外すと週刊誌の実録犯罪ものの暴露話的というか、ワイドショーのネタっぽくなってしまう恐れがあります。割に合わない賭けのようなものに感じてしまいます。

 この点、「堕天使の冒険」のパーシヴァル・ワイルドはうまいです。「駄天使の冒険」のベースは実話だそうですが、小説のキャラクターを配することで楽しい読み物になっています。

 イカサマ賭博を扱ったミステリ集として、ワイルドの『悪党どものお楽しみ』は実にすぐれた仕事です。「どうやってイカサマ師をギャフンと言わせるか?」も見事。

 ギャフン問題でいえば「いかさま賭博」も面白いアプローチをしています。


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