現代推理小説の父
今回から“The Sweet Shot”(1937)について語っていきます。ゴルフがからむ作品なので邦訳の「好打」とは、ナイスショットのことなのですが、英語の原題にも訳題にも工夫が施されている感じがします。
まずは基本情報から。作者はE・C・ベントリー(1875―1956)。『トレント最後の事件』の作者でおなじみでしょう。
ここで『日本推理作家協会賞全集20 推理小説展望』(中島河太郎著/双葉社)の第二部「海外推理作家事典」でベントリーについて調べてみます。いきなり、気になる表現があります。
イギリス作家。現代推理小説の父。
『日本推理作家協会賞全集20 推理小説展望』(中島河太郎著/双葉社) P.398より
現代推理小説の父? おそらくはイギリス推理作家クラブの二代目会長(初代はチェスタトン)を務めた功績などのことあってのことなのでしょうが、令和という現代の筆者からすると、「父」というイメージはありません。
有名な『トレント最後の事件』のほかにどんな作品があるのかと調べてみて驚きます。少ない。なるほど、作品数の少なさが筆者の印象を弱めていたわけです。
好きな『トレント最後の事件』には従来のミステリというものを皮肉ったところがありますが、“The Sweet Shot”にも皮肉が込められているように感じます。
皮肉というのはミステリの大事なポイントで、皮肉屋のほうが面白いミステリを書けるのではないかと感じています。皮肉という手法は「表面上はほめておいて、その実けなすこと」で真意はけなすことにあるわけです。外面、表層と真相が異なるという点ではミステリの謎と解決に近く、ともに物事を裏返す巧さを求められるわけです。
これまで「性格が悪そう、底意地が悪そう、友だちにはなりたくない」などといった言葉で紹介してきたミステリ作家が何人かいます。『世界短編傑作集』シリーズに顔を出している作家ですと「毒入りチョコレート事件」のバークリー、「密室の行者」のノックス。アンソロジーに作品は収録されていないですが、クリスチアナ・ブランドのことも「悪口」でほめました。
ベントリーはどうかといえば、確かに作品にこめられた発想に皮肉は感じるのですが、それほどシニカルな印象はありません。チェスタトンとアリンガムの間で、だいぶチェスタトン寄りに位置するという感じでしょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます