まっとう

 間があきました。今回で「黄色いなめくじ」は最後です。

 簡単な作品紹介のなかにフォーチュンが探偵役のシリーズには「陰惨な短編が少なくない」とあります。「黄色いなめくじ」も「陰惨」に寄った作品でしょう。

 探偵の造形がリアルというか、過度にエキセントリックではないため、背景も書き割りに見えないのです。パズルに寄せてあったり、キャラクターの描きかたがいかにもフィクションであったりすれば、人工的な印象が増します。

 探偵役の名前をホームズに変えて、ホームズのパスティーシュだとして読んだら、おそらく「黄色いなめくじ」の印象は変わるでしょう。パスティーシュとして成立させるには細部を「っぽく」「らしく」書き換える必要があるのですが、そういうことを最小限に抑えても、ホームズという名前に刷り込まれたエキセントリックな名探偵というイメージは強い。

 ホームズ譚にも陰惨なものはあるのですが、健康的な謎解き物語という印象が強いです。これはホームズシリーズを貫いているのがある種の古典的な騎士道精神ということもあるのでしょう。

 陰惨さから目をそらさないというのは、ある意味ではまっとうなのだと感じます。「黄色いなめくじ」を読んで強く感じたのは、作者の健全さというかモラルというか、そんなあたりのこと。

 犯罪にまつわる陰惨さを商品にはしない線の引きかたというか、なんというか。売れればなに書いてもいいもんね、みたいな精神とは距離を保つ冷静さのようなものが自然とそなわっている品のようなものは、海外古典ミステリの(ある部分での)色のような気がします。

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