どこまで書かないか
ミステリの推理のもとは情報です。AということからBということが言える、BということはCと言える、といった具合に論理の鎖を繋げていくわけです。
ベースは常識、というか、一般的に共有されているとされる知識です。特殊な知識が必要な場合、推理を披露する前にあらかじめ読者に提示しておく必要があります。そうでないとアンフェアとなります。読者も推理可能である、ということが謎解きミステリには重要なのです。
この「黄色いなめくじ」の場合、ある生き物の生態に関する知識が推理には必要です。「おいおい、お前、それで伏せたつもりか? タイトルに出てくるアレだろ」という声も聞こえてきそうです。ノーコメントです。ある生物とだけ書いておきます。後で「×め×じじゃなくて×じゃないかよ」とお怒りになられても困ります。ある生物が「な×く×」なんて、一言も書いていませんからね。反対に「××く×」ではないとも書いていませんからね。
話を戻します。「黄色いなめくじ」の後半の推理に必要な「ある生物」の情報は二つあります。一つはおそらく、常識の範囲内でしょう。ところがもう一つは……うーん、これはどうなのかなぁ。「そんなの知らないよ」というほどの突飛なことではないのです。言われればわかる。きっと言われなくてもわかる、というか、想像はできる。
一つ目の情報はただの知識、二つ目は知識がなくても一つ目の情報を知っていれば、容易に想像できる情報。二つ目のデータは知らなくても導き出すことのできるレベルのものなのです。
このただの知識とそうでないものの二つの鎖の距離感が絶妙。今回の更新分を書くまでは「ちょっと困ったもんじゃないか」と思ったんですが、今はこの距離感、ジャンプできる高さこそミステリの妙なのではないかと感じています。
懇切丁寧に推理に必要なデータを「読者が知らないかも」と恐れて先回りして書きすぎることがないというのは、書き手として大事なのでしょう。あまり書きすぎて作品から浮いていると「あぁ、これをここまで事細かに書きこむということは、後々、推理に必要になるデータなのだな」と作品を離れたメタレベルで怪しまれてしまいます。
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