なめくじは蛆なのか蛭なのか

 この「黄色いなめくじ」は変な作品です。「変さ」を探っていくと「奇妙な味」というキーワードが出てきます。この作品、「奇妙な味」なのかと思えば、そうでもないような気もするのです。

 このあたりは乱歩も感じていたのかもしれません。なぜならば、このアンソロジーを編むにあたり、乱歩は「クイーン試案のベスト十」など、いくつかのランキングを叩き台にしているのですが、乱歩自身が選んだ「私の二種のベスト・テン」のどちらにも「黄色いなめくじ」は入っていないからです。

「私の二種のベストテン」は「(A)謎の構成に重きをおくもの」と「(B)奇妙な味に重きをおく場合」の二種類のランキングです。

 Aには「ズームドルフ事件」「茶の葉」などの名前が挙がっています。密室もの、より正確に書けば、密室トリックものが多い印象です。

 一方、Bには「二壜のソース」「銀の仮面」「オッターモール氏の手」など。新版四巻に作品が集中していることは興味深いです。というのも、旧版『世界短編傑作選』と違い、新版『世界推理短編傑作集』は年代順に並べられているからです。「オッターモール氏の手」は1929年、「二壜のソース」と「銀の仮面」は1932年。

 黄金期とは「謎解きミステリ」や「名探偵」にとってだけでなく、「奇妙な味」にとっても黄金期だったわけです。ミステリのさまざまなジャンルまで充実していたからこその黄金期なわけで、当たり前といえば当たり前なのですが。

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