オゥエンとアガサの鼻歌
長くなりました「いかれたお茶会の冒険」もそろそろ終わりにしないといけません。今回、ネタばらしはありませんので、ご安心を。『悪の起源』についても語りたいところですが、またの機会に。
このままではこの《世界短編傑作選を読む》がスタートから一年たっても完結しないということになりそうですし、少し急ぎます。当初は一日一作を取り上げ、一ヵ月半で完結する予定でしたが随分と長期連載になりました。
カクヨム公式レビューがついたあたりから、俄然、筆者にやる気というか変なスイッチというかが入り、参考文献にあたるなど一作品あたりのボリュームが増え、内容もマニアックになってきました。読んでいただいているかたがたに本当に感謝です。
最後に触れておきたいのは「いかれたお茶会の冒険」に登場するオウェンという名前についてです。このオウェン氏と探偵クイーンには共通の友人がいる様子。
それがJ・J氏。
探偵クイーンのオウェン氏評は「J・Jのめんどくさい友達の一人というだけ」と手厳しい。もちろん、ミスターJ・Jは国名シリーズのまえがきでおなじみのJ・J・マック氏でしょう。シャーロック・ホームズの活躍を記録したホームズの伝記作家がワトソンとするならば、クイーンの伝記作家はこのJ・J・マック。
話を戻します。問題はオウェンという名前。
ミステリ好きの方ならば、「おや、どっかで聞いたことあるぞ」となるかもしれません。クリスティーの『そして誰もいなくなった』で、舞台となる孤島にゲストを招待する謎の人物の名前がU・N・オーエン。訳によってカタカナの表記はブレており、「オーウェン」としているものもあります。「いかれたお茶会の冒険」のほうは英語版が入手できなかったのですが、『そして誰もいなくなった』、“And Then There Were None”のほうは手元に『ラダーシリーズ And Then There Were None そして誰もいなくなった』(原著者 アガサ・クリスティー リライト ニーナ・ウェグナー IBCパブリッシング株式会社)があったので確認できました。
それによると【Owen】で「オーウェン」。人名なので、日本語で言うならば、田中さんや佐藤さんにあたります。偶然の一致だろうとするのが自然でしょうが、ミステリ好きとしては勘ぐりたくなります。前々回のラストにちょこっと触れましたが「いかれたお茶会の冒険」には、少しクリスティーっぽさを感じる箇所があります。その「っぽさ」が最もインパクトのある形で提示された某クリスティー作品が発表された後に「いかれたお茶会の冒険」は《レッドブック》誌1934年10月号で発表されています。『そして誰もいなくなった』は1939年の作品。
クイーンのオウェン氏のスペルがOwenかどうか未確認の状態で推理するのもどうかというものではありますが、仮にOwenだとしましょう。ずいぶん飛躍した想像ではありますが「クイーンさん、わたしならOwenという名前一つとっても、もっとうまくやれますよ」という声が『そして誰もいなくなった』から聞こえてくるようにも感じるのです。マザーグースの童謡に混じる得意げなアガサの鼻歌が。
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