恐怖の源泉

 前回、作者ウォルポールをより知るべく、短編集を読んでいると書きました。少し説明が必要でしょう。というのも、これ、日本オリジナルの傑作集だからです。

 収録作品を選んだのも、翻訳したのも作家の倉坂鬼一郎さん。《世界探偵小説全集》シリーズでミステリファンにはお馴染みの国書刊行会から出ている《ミステリーの本棚》シリーズの一冊、『銀の仮面』(現在はこれを元にさらに二編加えた創元推理文庫版のほうが入手しやすいかもしれません)。

 オリジナルの主要短編集三冊(The Silver Thorn 、All Souls’ Night、 Head in Green Bronze)から、ノンスーパーナチュラルとスーパーナチュラルものをバランスよく十一編をセレクトしたとのこと。

 トリックや名探偵と遠いところにある物語になぜこんなに惹かれるのか。恐怖、それも説明しがたい気味悪さ、居心地の悪さに基づいた恐怖にどこかミステリ好きが嗅ぎとれる匂いがあるのでしょう。

 定型的な謎解きミステリは、事件が解決するまでは居心地の悪さが存在します。犯罪者が野放しにされている状態はいつ自らの身に危機が降りかかるかもしれないというレベルもそうですが、法律を破ったものが罰せられないという倫理が崩れている怖さのレベルもそうでしょう。

 ウォルポールが描くのは、後者に近いでしょう。無秩序のもたらす恐怖。思えば、モルグ街で起きた事件は、謎解きでありながら、よりはむしろ恐怖、無秩序とそれに対する人々の反応を描いていました。「誰も自分の国の言語ではない。では、あの声は何者の声なのか」と恐怖でしょう。

 と、ここまで書きましたが、怖さの源泉がなにか、ミステリ好きが謎解きものではないウォルポールになぜ惹かれるのかは判然としないのです。

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