刑罰いろいろ
前回の後半部分は、ずいぶんとぼかした書き方になってしまいました。「消化不良だよ」「あの作品は読んでいるけれど、お前がなにに気づいたかわからなかった」というかたもいらっしゃるかと思うので、今回はネタばらしをします。
!!!!!注意!!!!!
この先、「信・望・愛」の結末など内容に言及します。未読のかたはご注意ください。
三人の犯罪者は、それぞれの故郷の国の刑罰について語ります。
ラフィットの故郷フランスでは、ギロチンによる斬首刑。
ヴェルディの故郷イタリアでは、話し相手もいない牢獄に一人で閉じこめられる刑。
ガザの故郷スペインでは、ガロットと呼ばれる道具での絞首刑。
十三階段のイメージ、首吊りではなく、柱に縛りつけられた状態で、じわじわと鉄のバンドをのどに食い込ませるというのがガロットという装置のようです。
三人はそれぞれ、ギロチン、孤独な牢獄、ガロットのような形で死を迎えます。
ラフィットはエレベーターの箱から顔を出した状態のときに急にエレベーターが動き出したために首と胴体が切断されます。つまり、エレベーターがギロチンになったわけです。
二人目のヴェルディは、谷に逃げます。崩落が起こり、追っ手を阻んだと喜んだのも束の間、谷に閉じこめられたことに気づき、自らの頭に銃弾を撃ち込みます。谷が孤独な牢獄というわけです。
三人目のガザは、偶然、出会った人物を撃って、その人物になりすまそうとたくらみます。すぐにやってくるはずの追っ手の目にいかにも被害者らしくうつるために、逃げる前のヴェルディに牛の皮で柱にくくりつけられます。ところが、追跡隊が来るのは予想外に遅くなり、その間に牛の皮は太陽の熱で乾いて縮み、ヴェルディののどを締め上げます。つまり、牛の皮がガロットのバンドになったわけです。
作中にきちんと「つまり、スペイン人のガザは、正真正銘のガロットでじわじわと絞首刑にされたのだった」とあるので、さすがの私も牛の皮とガロットの関係には気づきました。
ところが、その前の二つ、エレベーターとギロチン、孤独な牢獄と谷底には今回、読み直しをするまでまったくピンと来ていませんでした。
言い訳をするならば、牛の皮が乾いて縮むという原理というか豆知識は、ミステリのトリックの種明かし本的なものでしばしば紹介されています。ですので、「なるほど、この作品は例の皮が乾くと縮むアレの元ネタだったのね」としか思っていなかったのです。
最近、とんと見なくなったあの手の本は、『世界短編傑作集』が元ネタだったというのが、正しいのかもしれません。見かけなくなったのは、やはり、いたずらにネタの部分だけ集めてバラすのはよろしくなかろうという配慮というか時代の流れなのかもしれません。確かにあんな簡単にトリックだけバラされても、という気はします。せっかくならば、児童版であっても、きちんと「小説」の形で名トリックには出会ってほしいものです。
特にアレとアレとアレとアレは。
話を戻します。
読み直しで、犯罪者たちそれぞれが語った刑罰と死との関連に気づいたのは、エレベーターの段階。
ここで孤独な牢獄とガロットをどう模倣するのか、と興味を抱くのが正攻法の楽しみなのでしょう。
!!!!!ネタばらし、ここまで!!!!!
いろいろ書きましたが、犯罪者たちの逃亡は成功するか。その点だけでも充分に興味をもって読み進めることのできる作品です。
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