完全犯罪と毒

 ミステリーと毒は相性がいいようで、実はあまりよろしくないのではないか。

 以前からそんなふうに感じておりました。

 これは自分で推理小説を書くようになってから、より強くなります。

 私にとって書きやすいテーマは密室でした。

 トリックが思い付けば、書ける。そして、いわゆる「針と糸」にかわるものを思い付けば、密室トリックはできる。

 文明は発展しており、新しいテクノロジーが生まれ、新しい道具ができれば、そのアイテムを利用すればよい。

 そうしてできたものが面白いかどうかは別として、とりあえずはつくれる。

 密室に対し、毒は私にとって難題。

 ネタ帳に毒に関するアイデアは書いてあるのですが、作品にしたものは一つもないはず。

 少なくとも公募の作品のメインテーマに毒をもってきたものはありません。

 たぶん毒は「謎解き」よりも「完全犯罪」のほうに向いているのではないでしょうか。

 死亡時に犯人が現場にいる必要がない毒は、ナイフで刺したり、ロープで首を絞めたり、灰皿で殴ったりするよりも確実性が低くなるぶん、容疑者の範囲も広く、完全犯罪には近づくようにも感じるのです。

 適切にデータを示して、ミステリーとして成立させるのも難しい。

 特に犯人当ては工夫が必要です。

 もちろん、傑作はありますが、難易度は高いと思うのです。

 長編『毒入りチョコレート事件』は毒で犯人当てをつくる難易度の高さを逆手にとったのではなかろうか、という推理は案外、的中しているのではなかろうか、と。

 その点、「偶然の審判」は非常にうまい処理をしています。

 タイトルにもある偶然と、探偵役の推理を裏付けるデータの提示のタイミングと、作者の作家的イメージがうまくマッチしているのです。

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