密室にする理由、しない理由
密室ミステリー、より輪郭を明確にするならば、密室トリックを語る際につきもののフレーズがあります。
「密室の必然性」というやつです。
噛み砕けば、「なんでわざわざ密室にしなきゃいけなかったの? 面倒くさくない?」となるでしょうか。
大概の密室ミステリーは作者が「トリックを思い付いた」から生まれます。これは作者レベル、作品を離れたレベルのお話。
ところが作品の内部、犯人からすると密室にする理由がないと先述のように「なんでわざわざ密室にしなきゃいけなかったの? 面倒くさくない?」というツッコミもとい疑問に答えないとなりません。
よく言われる「【犯人はミステリーマニアだったから密室をつくりたかったのだ】はダメ」論も、私は好きなのですが、そうもいかないよう。
この先、「窓のふくろう」(別題「電話室にて」)のネタばらしをします。未読のかたはご注意ください。
「窓のふくろう」は機械装置を使った遠隔トリックです。『探偵小説の「謎」』まで引き合いに出したなら、はっきりアレをアレにしたやつと書けよ、という声も出そうですが隠します。隠しても論は進むからです。
話を戻して、「窓のふくろう」は密室の分類でいえば、「犯行時、犯人がその場にいなかった」タイプ。このたぐいのトリックは自死や事故死に偽装する場合をのぞけば、アリバイをつくったほうが犯人には得なのです。
前回、この作品は密室にすべきでない、密室にしないほうがよいと書いたのは、この観点からなのです。
密室にしなければ、強盗かなにかに撃たれたという可能性が検討されます。わざわざ密室にしていく理由は行きずりの強盗にはないので、密室にしてしまえば強盗以外の誰かの作為(つまりトリック)があったとしか考えてもらえません。
私ならば、いかにも「強盗は裏口から逃げた」というストーリーに誘導するため(手練れのミステリー読みに対しては、そうじゃないからねと、強調するため)に(事後でも)家のどこかに荒らしたような痕跡を残し、裏口から逃げたような跡を残すでしょう。
こういう工夫をやらなかったから甘いと断言できないのは、機械装置の処理含め事後工作の時間がなかったという設定を作者は用意しているからです。
事後工作ができなかった理由がタイトルの「窓のふくろう」であることが憎らしいほどうまい。
そして、「窓のふくろう」にはもう一つ重大な役割が振られているのがうまい。私がタイトルを評価するのは、「もう一つの重大な役割」の隠しかたがポオのアレくらいヌケヌケとしているからです。
ポオの場合はメインテーマですが、「窓のふくろう」はあくまで副次的な趣向。それだけに冒頭から大胆に仕掛けていることに気づかない読者がいるというのが評価ポイント。
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