これは密室なのか

 今回はネタばらしになりかねないようなデリケートな部分に触れます。

 鼻をきかせて「これはヤバいかも」と思ったら、読むのを止めてください。


 この企画のために何度も「窓のふくろう」を読み直しているうちに一つの疑問を抱きました。「これは密室なのか」と。

 死体のあった家にはナイフで窓をこじ開けて入っていますし、一階のドアは裏も表も施錠されていたという証言があります。

 すべての窓を調べたり、抜け穴や隠し通路を調べたりはしていないので(家のなかに不審人物がいないらしかったことはさらっと提示される)、密室だったという検証がないのです。

 じゃあ、これは密室ではない。少なくとも「密室もの」ではない、とは言えそう。

 どうだこの密室の謎を解いてみたまえ、というカーのような無邪気な感じではないのです。


 ここから、ちょっとデリケートな箇所に入ります。


 一応、注意喚起はしましたよ、と逃げをうって書きます。

 これ、密室にしてしまうと都合が悪いのです。


 この点、乱歩はどうとらえていたのか。この連載ではおなじみの『探偵小説の「謎」』(江戸川乱歩著 現代教養文庫)にあたってみました。

 ブラウン神父みたいな物言いになりますが、『探偵小説の「謎」』を読んでいるかたは、「窓のふくろう」(別題「電話室にて」)のネタばらしになるので、次からの箇所は気を付けてください。

『探偵小説の「謎」』で乱歩はさまざまなミステリーの仕掛けを分類しています。だから、作品名を明かしていなくても、シチュエーションが提示され、トリックが紹介されています。ネタばらしになるというのは、そういう意味です。

 問題の「窓のふくろう」の仕掛けも紹介されています。ポイントは「5 密室トリック」の項で取り上げられているところ。

 どうやら乱歩は密室だと認識していたようです。

 でも、この作品は「密室もの」として紹介しないほうがよいと感じるのです。

 書き手としては核になるアイデアから密室的なシチュエーションを設定したのでしょう。ただ犯人的な思考としては完全な密室にすることにメリットが薄いのです。

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