「優しくなければ生きている資格がない」とか抜かしていたらゴロツキにぶん殴られて、転生したら老人になってドデカい魚を釣り上げてしまった件

 


 結局、これで十回目となるヘミングウェイですが、当初はこれほど書くことがあるとは思いませんでした。むしろ「これは困ったぞ、なにを書けばいいのか、一回分の原稿もできないかもしれない」と頭を抱えたほど。

 少しでも参考になればと読み始めた『老人と海』(ヘミングウェイ著/小川高義訳/光文社古典新訳文庫)が実に面白かったです。探偵も謎も死体も密室もでてきませんが、実に面白い。謎はないけれども、老人は餌に食いついた大魚を釣り上げて、港に帰ることができるのかという興味で引っ張ります。

 そして、これはハードボイルドです。

 フィリップ・マーロウもテリー・レノックスも、大鹿マロイもヴェルマも、ギムレットも詩的な台詞も、銃も蠱惑的な女性の依頼人も、アメリカの暗部も家庭の悲劇もでてきませんが、これはハードボイルドだと感じました。いえ、これこそハードボイルドだ、と声を大にして言いたいほど。

 文体ではなく思想の部分というかがハードボイルドです。間違いなく「やせ我慢の文学」。ヘミングウェイがハードボイルドの始祖という考えにも大いにうなづけます。

 そして、小川高義さんによる解説と訳者あとがきが、とても鋭い分析になっています。こんなふうに解説を書きたい、と大変刺激を受けました。ただの分析ではなく、ちょっとした推理小説としても読めます。翻訳者は作品に散りばめられた作者の本意を探る探偵のようです。

 次回から「窓のふくろう」を取り上げます。

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