マニアの狭量


 この企画のためにシリーズを読み直す以前に旧版は全巻読んでいるはずなのですが、初読時は「ヘミングウェイもミステリを書いていたのか」と驚き、大変期待を持って前のめりに読んだものです。そのぶん、がっかりもしたものです。ハードルを上げすぎたのがよくなかったのでしょう。若いというか幼かったんですね。

 今回、読み直して評価が変わった作品は多いのですが(それ以上に内容を忘れて新鮮に読めた作品が多いのはどうにもこうにもアレですが)、残念ながら「The Killers」への評価は「これはミステリかどうか」の点に関しては、さほど変わっていません。

 トリックや謎解きといったものに偏重気味の私にとって、「The Killers」は内容的にもミステリとは言い難いということもあり、どうしてもこれをミステリとしては認めがたいということもあるでしょう。少なくとも、これは謎解きのミステリではありません。名探偵どころか探偵すら不在、あるのは犯罪(計画)のみ。

 犯罪から人を守るために「行動」する部分はちょこっとあります。ここは依頼人や犯罪に苦しむ人々を救おうとするホームズ的でもあり、フィリップ・マーロウ的でもあるのですが、短編ということもあり、やはり少々、弱い。世界的文豪にケチをつけるようでアレですが(いや、ワタシノホウガへみんぐうぇいヨリモ、ズットズットみすてりヲ愛シテイルゾ)、これをミステリとして、それも席数の限られたアンソロジーに選ぶのはきっついなぁ、というのが正直なところ。

 ただ、加齢とともに多少、柔軟に物事をとらえることができるようになったためか、面白い作品かどうかという点では、今回、評価を上方修正しました。

 確かに犯罪計画とサスペンスはあるのですが、この作品の面白さはそういったミステリの形式的なものには、あまりありません。それは幕切れによくあらわれているでしょう。

 これまで書かれたハードボイルドの傑作の多くがそうであるように、これもまた「報われない男」の物語なのです。


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