文豪とミステリ
今回から「The Killers」を取り上げます。作者はアーネスト・ヘミングウェイ。そうです、あのヘミングウェイです。
世界的文豪と推理小説。どうも結びつかないというかたもいらっしゃるのではないでしょうか。早い時期のミステリの名作には、文学者の名前も見られます。第一集の「安全マッチ」のチェホフもミステリ作家というよりは文豪でしょう。
これはミステリというものがジャンルとして分化しておらず、文芸の書き手はミステリ《も》書いていたということらしい、というのは、この連載でも触れてきました。
この動きは海外に限らず、国内にもあります。有名なところですと、坂口安吾、谷崎潤一郎といったところでしょうか。すぐれた人間観察はミステリにも必要ということでしょうか。安吾に関しては純文学のほうの作品は読んだことがないけれども、探偵小説ならば読んだことはあるよ、というかたもいるはず。特にこの連載をチェックしていただいているようなかたは、その傾向が強いかもしれません。
再び、海外に話を戻すと、本来は文学の人間なのですが、優れたミステリを残したために、文芸分野での作品が残ることがなかったり、存在感が薄れて、「ミステリの作家」や「○○○」というミステリの作者として、日本国内では知られている作家もいます。
たとえば『赤い館の秘密』のA・A・ミルンは一般的には《「熊のプーさん」の作者》でしょうが、ミステリファンには《『赤い館の秘密』を書いたミルンは実は「熊のプーさん」の作者でもある》という豆知識とともにある人物でしょう。このシリーズに名前が挙がっている作家ですと「三死人」のイーデン・フィルポッツが好例でしょうか。
あまりに存在が大きすぎて忘れられているG・K・チェスタトンも忘れてはならないでしょう。
ちょっと皮肉なケースですと、コナン・ドイルでしょう。ドイル自身は歴史もので名を残したかったのですが、「ホームズの作者」という歴史が残りました。ドイルの無念さを知っているのは、一歩踏み込んだミステリファンというのもかわいそうです。
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