近さと高さ

 前回、「イギリス製濾過器」には苦しいところがあると書きました。

 短編ミステリの良さの一つはコンパクトで切れ味のよいアイデアがいきるところです。反面、情報を詰め込みがちになるという脆さも持っています。

 ネタばらしにならないように具体的には書きませんが、謎と答え、手がかりと真相の距離が近いためにオチがわかりやすいところはやはりもったいない。

 私自身のミステリ観なので異論はあるでしょうが、謎と解は並んで張り付いているのではなく、謎の裏側に解があるほうが好みです。ひっくり返したら、裏側に答えがあって「こんなに近くにあったのか」と驚く幸せはミステリーならではだと思うのです。

 その点で「イギリス製濾過器」は、同じ高さを水平に隣へ一つ動いただけで、答えという景色が見えてしまうようで物足りないのです。

 曲がりくねった長い階段を一段、一段、上昇していくようなロジックの連鎖を短編に求めるのも酷ではありますが。

 もっともそれは真相を知っているからこそ「あぁ、これは真相への架け橋だ」となるのかもしれません。初読では不満に感じなかったことからも、それは言えます。

 ちょっと想像の枠を越えるほど、ぶっ飛んだアイデアだけにきちんと伏線を張るのも難しいのかもしれません。

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