完全犯罪という夢想
今回で「キプロスの蜂」は最終回にします。最後に考えておきたいのは、乱歩はこの作品のどこにひかれたのか、という点。
やりようによっては完全犯罪になりうる素材を扱っていることなのではないか、と推測しました。ネタばらしありの回ではないので詳しくは書きませんが、「キプロスの蜂」の魅力の一つは独特の犯行方法でしょう。この手段は、ミステリー、推理小説、それも本格ミステリとして仕上げるには難しい部分があります。
書き手としてはともかく、選者としての乱歩には、さほど本格ミステリにこだわらない視野の広さを持っています。ですから、「キプロスの蜂」が本格でないことは不思議ではありません。
乱歩が執着を見せるのは完全犯罪という夢想です。「プロパビリティの犯罪」というのも、ある種の完全犯罪への志向でしょう。「キプロスの蜂」がプロパビリティの犯罪なのかは書かずにおきますが、完全犯罪になりうる物語で、そのあたりに乱歩は目をつけたのではないかと想像してしまうのです。
次回から「イギリス製濾過器」を取り上げます。
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