『九尾の猫』と『アメリカ銃の謎』と

 ※※「キプロスの蜂」の中盤までの展開と、エラリー・クイーン『九尾の猫』と『アメリカ銃の謎』に触れます。犯人や真相には言及しませんが、なにも情報のない状態で楽しみたいかたは、ご注意ください※※




 中盤で「キプロスの蜂」は、ある事件の存在があらわになり、その犯人を探すという方向に舵を取ります。ところが館物やクローズドサークルものとは違い、容疑者となりうる範囲が非常に広範囲なのです。

 容疑者の数が多いということでミステリ好きに知られている作品として『九尾の猫』と『アメリカ銃の秘密』の二作品の名前を挙げておきます。

 容疑者の範囲が広い、という共通項を持つ二作ですが、大きな違いがあります。『アメリカ銃の秘密』では、最初に想定された容疑者群のなかから、論理的な推理によって絞り込みが行われるのですが、一方、『九尾の猫』では、ある要素をいったん挟むことで容疑者が限定され、そこから論理的に犯人を絞り込む作業が行われることです。「キプロスの蜂」の容疑者群のサイズは『九尾の猫』と『アメリカ銃の秘密』の間で、だいぶ『九尾の猫』寄りの広さでしょうか。

 この絞り込みでも、ホームズ的な(やや無理筋)の推理が行われるのですが、多少、力業ではあっても、ここまで広い範囲から容疑者を絞り込む作品はそうありません。この推理のエレガントさに対して、あまり評価する声が聞こえてこないのは残念です。

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