蜂と鵞鳥

 これはホームズものなのだ、というのが読後にまず浮かんだ私の感想。

 ネタばらしのない範囲で具体的に作品名を挙げるならば「青い紅玉」(訳書によって「青いガーネット」など別タイトルの場合あり)です。ロウの染みのある帽子というアイテムから、物語が意外な方向に転がっていく楽しさのようなものが「キプロスの蜂」にもあります。もちろん、冒頭に紹介される生きた蜂入りの木箱が「青い紅玉」の帽子にあたります。

 ちょっとネタばらし気味になりますが、ホームズもののある作品にも似た匂いを感じます。もしかしたら「キプロスの蜂」を何回か取り上げるなかで、ネタばらしありの回を設けて「ホームズもののある作品」の名前も挙げるかもしれません。

 また中盤で、木箱とは違うある品から騒動に関係あると思われる人物の人となりを推理するのですが、この場面、ホームズのオープニングでしばしば登場する依頼人の素性当てによく似ているのです。

 それもちょっと無理筋なのにうまいこと丸め込まれてしまう部分があるのです。「こんなことからそんなことが導き出されるなんて」という驚きに「でも確かに筋が通っている」と「いやいや、さすがにそれは」が混じり合うあの感覚があるのです。子どもの頃は素直に度肝を抜かれたけれども、大人になって読み返すとちょっと首を傾げたくなるようなあの感じです。

 あからさまにオマージュしたり、パロディにしたりしているわけではなさそうですが、「あぁ、やってんなぁ」とホームズがミステリーの入り口だった私は嬉しくなりました。

 実は「青い紅玉」はホームズシリーズのなかでも好きな作品で、お気に入りの要因の一つが、依頼人当ての部分が他の作品よりも長いところなのです。「青い紅玉」を想起したのも、「キプロスの蜂」の人物像の推理が「青い紅玉」の依頼人当てに似たところがあるからかもしれません。

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