最有力容疑者をどう認識するか
今回はネタばらしをなしにしますが、多少、デリケートな部分に触れるかもしれません。この程度ならば大丈夫という判断をしたうえで書きますが、一応、注意喚起しておきます。
この「茶の葉」という短編は、ホームズものの一つの型である「犯人と疑われて困っている人を救う」物語として、読むことができます。犯行現場の状況からウィラトンが疑われるわけです。
一方で「唯一の容疑者がある一要素によって犯行不可能とされ、その不可能性を崩す」物語としても読むことができます。アリバイ崩しの作品を思い浮かべていただければ、わかりやすいかと思います。
どちらの物語として楽しむかは読み手にゆだねられていますが、これは犯行現場に(準)密室的な状況が加わることによって、成立しています。カーの長編『ユダの窓』に近いシチュエーションと書けば、「あぁ」とうなづいていただけるかたもいるかもしれません。
さきほど、どちらの物語としてとらえるかは読者次第と書きましたが、これは短編ということもあるのかもしれません。もっと書き込みができる長編ならば、読者が感情移入するキャラクターをきっちり用意して描くことで、ある程度の「こう読んでください」というコントロールが可能になるはずです。
この「こう読んでください」の操作が発展していくと、後に叙述トリックとして推理小説に一つの新しいジャンルが生まれるのでしょう。
はたしてウィラトンは運の悪い青年なのか、それとも、奸計を用いて嫌疑を逃れようとしている悪党なのか。どちらなのかは、もちろん、ここでは明かしません。読んだかたはおわかりでしょう。気になるかたはぜひお読みください。「あぁ、あのやつでしょ」で済まされがちですが、読み込むと実に示唆に富んでいます。
ずいぶんと長く、また更新も飛び飛びになってしまいました。次回から「キプロスの蜂」です。これもまた厄介な作品になりそうです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます