謎を美しく壊す芸術

 しばらく、ネタばらしのある考察が続きました。今回はネタばらしなしです。

 ミステリの書き手のかたならば、共感していただけるかと思いますが、トリックを思いついたから作品が書けるわけです。

 まず、トリックが先にある。

 犯人はそれでいいのですが、ミステリは探偵の物語でもあります。謎は提示されたら、解かれなければならない。謎が謎であり続けるのは、そうそう許されない残酷な世界です。

 推理小説の読者は、魅力的な謎を欲するうえに、それが壊れることをも欲する。大変にわがままな生き物です。しかも、美しく破壊されることを望むのですから、強欲と表現してもいいでしょう。

 書き手として頭を悩ますのは、実はこの謎をほどく課程をエレガントに仕上げることです。

 A、「こんなトリックならできますよね」で済ませる。

 B、Aに「このトリックを使えたのはあなたしかいない」を加えて犯人を特定する。

 C、「これこれこういう推理から、こんなトリックが使われたはずです」をAの前に用意する。

 Aだけでは本格ミステリにはなりにくいでしょう。少なくとも私はAだけでは本格ではないとする立場です。フーダニットとして成立するBまでやって本格だというのが、私の考えです。もっとも本格の見せ所なのは、Cのロジックの紡ぎ方だと考えます。

 この「茶の葉」も、きっとトリックが先にあって書いたものではあると思いますが、きちんとCになっているのが素晴らしいです。

 今でいう本格の概念もぼわっとしか存在していなくて、ジャンルとしてきちんと区分けされていなかった時代であったろうと推測できるぶん、ここまでやっているのは本当にすごい。

 次回はまたネタばらしをして、具体的にどうやっているのかを考察していこうと思います。


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